巻頭インタビュー 私の人材教育論 身体を使った体験が 職業意識を醸成し自立を促す
子どもが好きな仕事にチャレンジし、楽しみながら仕事や社会の仕組みを学ぶことができる「キッザニア」。
2006年のキッザニア東京に続き、2009年には兵庫・西宮にキッザニア甲子園を開業し、いずれも予約が取りづらいほど大盛況だという。
運営会社・キッズシティージャパンの社長を務める住谷栄之資氏は、「体験を通して職業意識を醸成する」というキッザニアのコンセプトに感銘を受け、その開業に尽力した人物。
自身の経験からも、「体験こそが自立を促す」と語る住谷氏は、このキッザニアこそが、日本の人づくりに、さらには教育現場に一石を投じる役割を担うと考えている。
やればできる──その想いが自立を促す
── キッザニアは、子どもに合わせて現実世界の約3 分の2 のサイズでつくられた街だそうですね。そこには、パイロットや消防士、医師、幼稚園の先生など約90種類の仕事が体験できるパビリオンが並んでいて、子どもたちは現実さながらに仕事ができるとか。独自通貨で給料も支払われ、大人同様の活動ができるのですから、子どもたちに大人気なのも頷けます。入園の予約が取りづらいほどだと伺いました。
住谷
各パビリオンは関連するスポンサー企業にサポートいただいているので、そこで使う道具やユニフォームは実際に使われている物とほぼ同じです。また、給料としてもらえる「キッゾ」はキッザニアでしか使えない独自通貨ですが、それで買い物をしたり、銀行口座を作って預金することもできる。キッザニアはまさに、1 つの街になっているのです。
対象年齢は3 ~15歳ですが、働く前には、それぞれの仕事に関連した話や働くうえでのルールを説明します。働くことは簡単なことではない、ということを理解してもらうためです。そのうえで実際に仕事に取り組み、「仕事は遊びではなく、真剣に取り組まなければならないもの」ということが実感できるからこそ、やるべき仕事を成し遂げた時の子どもたちの喜びは大きくなるのです。
── キッザニアは、1999年にメキシコで創設されたそうですね。
住谷
私がその存在を知ったのは2004年4 月。その前年の3 月に、私はWDIの社長を退いて自由な身になっていましたから、すぐに孫を連れて実際に見学に行きました。
── WDI と言えば「ハードロックカフェ」や「カプリチョーザ」などのレストランブランドを国内外で展開している会社ですよね。
住谷
私が学生時代の先輩と1969年に創業した会社です。60歳を機にそのWDI を退職したので、すぐに視察に出かけることができたのです。
その頃はニートが社会問題になっていましてね。国会審議やマスコミ報道でも、どうしたら解決できるか、話題になっていました。ただ私は、そうしたニート対策が成功するとはとても思えなくて。大人になってから教育してもムダだと思っていたからです。
WDI で長く外食産業のマネジメントに携わっていましたから、当然のことながら私も若い人たちの人材育成に心血を注いできました。しかし、思うような成果が上がらなかった。セミナーに参加させたり、社内で研修会を実施したりすることで知識やスキルは向上しても、チャレンジ精神や責任感、コミュニケーション能力といった、社会人としての総合力はなかなか向上しない。やるべきことを自ら見出し、目標達成に向かって意欲的に取り組むような自立型人材が欲しくても、そういう人材を得るのは難しいというのが実情だったのです。
キッザニアの話は、そうした私のもやもやとした気持ちに一筋の光を与えてくれました。ここに自立型人材を育てるヒントがあると思ったのです。独立心旺盛なたくましい人材を育てるには、やはり子どもの頃の経験が大きく影響しますから。「三つ子の魂百まで」とか、「鉄は熱いうちに打て」とか、昔の人も言っていますよね(笑)。
── 幼い頃に培われた性質は歳を取っても変わらないから、柔軟に吸収できる若いうちに鍛えるべきである、ということですね。
住谷
私は教育の専門家ではありませんから、ニートが社会問題となっている日本の教育の現状をどうしたら改善できるか、確かなことは言えません。ただし私の経験から言えば、“体験が自立を促す”と思っています。体験して、何かをやったという達成感が、成し遂げたという自信になるのです。その「やればできる」という想いがあるからこそ、自立できるのです。
そうして体験に裏付けされた自信があれば、たとえば、人にアドバイスを求められた場合でも、説得力のある助言ができる。書籍や聞き知ったことの受け売りでは、聞いているほうも納得できないでしょう。
ですから私は、「体験を通して職業意識を醸成する」というキッザニアのコンセプトに感銘を受けたのです。そして、これをぜひ日本にも紹介したいと思った。そう思ったら行動あるのみ。考え込むよりも、まずやってみようと思って、メキシコに飛んだのです。やってみないことには、何も始まりませんからね。
日本の教育に一石を投じる
住谷
本来、教育は何のために行うのか。もちろんそれは独り立ちするためです。どうやって将来、食いっぱぐれないようにするか。そのためには、どうやって稼ぐか──。1 人の人間として、いかに自立するかを叩き込むものであるはずなのです。
昔はよく「手に職を持つ」という言い方をしました。どんな状況になっても生活できるだけの技を身につけることの大切さを諭す言葉ですが、今の日本では、この精神がおろそかになっているような気がします。特に日本の教育は、手に職を持つためではなく、大学に進学するため、そしてサラリーマンをつくるための教育になっているように思えてなりません。