連載 HR Global Eyes 世界の人事 ニッポンの人事 最終回 働く場所は自分でつくる。 社内外で求められる「おしん」の気概
働きがい重視の世代は大手企業より起業を選ぶ傾向に
コンセプトは大好きなのに、使われる外来語が気に入らないということが時々ある。たとえば、アメリカ生まれの“アントレプルナーシップ(entrepreneurship)”「企業家精神」というマネジメント用語。前半は“アントゥルプルヌール“というフランス語の流用で、語源的には「企てる者」という意味を含むので選ばれたのだろう。しかし残念ながら、現代フランス語の“アントゥルプルヌール”には「建設工事請負人」の意味しかない。当のフランス人には「土建屋根性」みたいな感じだろう。
英語でも、「企業」を同じ語源の“エンタープライズ(enterprise)”と格式ばって言う場合もあるし、「進取の気性」を意味する場合もあるから、完全な誤用ではない。ただ、関心を引くために、わざわざ英語なまりのフランス語を使うから違和感がある。それに日本語の訳語は、「企業家」ではなく「起業家」のほうが今では一般的だから、アントレプルナーという変な呼び方よりも、“ベンチャー・キャピタリスト”という英単語のほうが直截的でスッキリする。
その「起業家」について、最近、昔のセミナー仲間のフランス人2 人と面白い議論ができた。2 人ともスイスの有名なビジネススクールの教授で、1 人は私と同じR&D の専門家、もう1 人はマーケティングのプロでサービス品質に造詣が深い。2 人が異口同音に、こう語った。「最近、うちでは大手企業に就職する割合が激減している。それは大半の受講生が自分で起業しようとするからなのだ。だから“ 起業(ベンチャー)マネジメント概論”のコースは大人気。企業の金で学んでいる層も、少数派だがまるで食い逃げするかのように、その後企業に戻ろうとしない連中が目につく。どうやら大組織への“不信感”や、その中での“働きがい”に確信が持てないらしい。“自分らしさ”を探している彼らに接していると、我々教える側も、違うガイドの仕方を心しなければならない時が来たのだと実感するよ」
私自身は、国内外の大学で招待講師程度のかかわりしかないが、まったく同じ感想を抱いたことがある。R&D マネジメントを大企業内での仕組みとして話す時よりも、さまざまなエキスパートやスタートアップ小企業のネットワーキングを図る「分散型研究開発」を説明する時のほうが、瞳の輝きが違うし、生きの良い反応が返ってくる。