連載 ラーニングイノベーション 最終回 特別対談 アウトソーシングされない人事部に今、必要なこと 人が成長するって本当に 信じていますか?
オランダで発見した日本の課長の優秀さ
中原
今回は連載最終回を記念して、酒井穣さんをお招きしました。海外で働かれた経験のある酒井さんと、グローバル化が進む中での「人事の今後」についてお話をしたかったんです。
では早速ですが、酒井さんは、新卒で日本の商社に入社されて、その後オランダで仕事をされてきたわけですが、簡単に経緯を教えてください。
酒井
大学卒業まで海外に行ったことがなかったので、とにかく「海外へ行きたい」という単純な動機があったんです。それと、「小さくてもいいから自分で船を造るような仕事がしたい」という気持ちがあり、当時はまだ有名でなかった商社に入社します。幸いすぐ海外担当になり、台湾で精密機器の販売や機器導入を行っていました。
転機となったのは、1999 年の台湾地震です。この時の日本本社の反応は「危険だから、すぐ帰国しろ」というもの。ただ現地では、多くの顧客企業が被災していたので、1 日でも早く復旧させようと勝手に残って頑張ったんです。
これが目立ったのか、IT バブルだったこともありヘッドハンターから声がかかりまして、8 社ほど受け入れ先があるというんです。そのうち7 社はシリコンバレーで、1 社はオランダ。普通ならシリコンバレーを選ぶと思うのですが、私は「人が選ばないほうを選ぶ」というモットーがありまして(笑)オランダにしました。それが2000 年のこと。
この会社も半導体製造装置メーカーでした。在職中に通ったMBA のクラスで、起業に関する授業があり、同じクラスの仲間と事業を設計し、実際にやってみたのです。これが軌道に乗り、会社員と経営者の両方をすることになりました。今もこの会社は生き残ってますよ。
中原
酒井さんは台湾やオランダの企業を見てきたわけですが、日本企業との違いはどんなところでしょうか。
酒井
中間管理職ですね。オランダで会社をつくった時に、いわゆる課長を採用しようと思い、多数の応募者に会ったのですが、率直に言って「こんなレベル?」と思いました。自分が日本企業で見てきた課長のほうが、スキルもマインドも知識もはるかにレベルが高かった。そこで思ったのが、実は“課長”という職種は、日本企業だけが価値を高めてきたブルーオーシャン(未開拓市場)なんじゃないか、ということ。日本企業の強さの要は、優秀な課長にあるのではないかと。
ところが、この点についてきちんと整理された本は意外にありませんでした。そこで『はじめての課長の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を執筆したのです。
中原
オランダと日本の課長で、最も違うところは何ですか。
酒井
月並みなところで“責任感”です。与えられている仕事の質や期待されている役割が、日本企業とヨーロッパではまったく違います。
ヨーロッパ企業では、上がすごくしっかりしていますから、中間管理職にそこまで責任はないんですね。ところが、日本では課長がしっかりしているので、上はいなくても現場は回る、といった感覚がありますよね。
中原
80 年代後半に、一橋大学の野中郁次郎先生が「ミドル・アップダウン」という表現で、日本企業の中間管理職を“発見”しました。日本企業はトップダウンでも、ボトムアップでもない。質の高い情報を大量に持っている中間管理職がトップに働きかけて意志決定を促すと同時に、部下を束ねて走るミドル・アップダウンであると。この意志決定と行動パターンが日本企業を支えてきたという指摘です。