論壇 中堅社員の「巻き込み力」が 会社の業績を左右する!
ビジネス環境の変化がめまぐるしい昨今、組織と個人に求められる仕事のスピードや質も高まっている。
職場では、さまざまな役割を求められて管理職は疲弊している。そんな中、効果的な組織運営に貢献するのはまさに“中堅社員”。中堅社員が周囲と協力しながら良い仕事を成し遂げていく「巻き込み力」を高めることが、これからの組織運営のカギである。その利点、必要性と中堅社員の巻き込み力強化のための具体的な方法を紹介する。
管理職より中堅社員の「巻き込み力」に注目すべき
現在、多くの企業で、管理職に大きな負荷がかかっている。業務の監督や調整、社員の育成、支援などがすべて「管理職の仕事」とされ、それらがきちんと行われていないと言われる。しかし、管理職の多くは、管理職としての役割だけではなく、プレイヤーとしての役割も兼ねているため業務過多に陥っており、手が行き届かない。さらにプレイヤーとして働く期間が長かったため、管理職としての能力が育っていない人も多く見られる。そのため、職場の生産性が低下したり、部下やその他の社員の成長速度が遅くなるといった不都合が起きている。
企業の人材開発の担当者は、この問題を解決しようとして管理職の能力を高める教育に注力することが少なくない。しかし、この問題は管理職だけの問題ととらえるべきではないだろう。なぜなら、管理職は先に述べた通り、さまざまな役割を求められ過ぎて疲弊しており、これ以上負担を強いても効果はないからだ。
そこで私は、中堅社員に注目すべきだと考える。業界や会社によって何年目の社員を「中堅社員」ととらえるかは異なると思うが、ここでは中堅社員を4 年目~ 8 年目程度の「若手中堅」として考えたい。彼・彼女らは、ある程度の知識と経験を積んできており、社内での人間関係もある程度築いている。彼らが主体的に周囲とかかわれば、部門の中の業務の調整をすることも、部下を指導することも、上司の苦手なところを補佐することもできる。つまり、中堅社員は管理職の仕事を補完することができるのだ。
また、今の時代、企業が抱える課題の多くは、1 つの部署だけで処理したり、意思決定することが難しいほど複雑化している。よってその狭間にある「業ぎょうさい際業務」にどう対処するかがカギとなる。
業際とは、日常的な言葉で言えば、“各業務の際”のことを指す。自分の業務、自部門の業務だけではなく、業務の際を越えた対応を行うということだ。また、“業際”はもっと大きな意味では“業界の際”も表す。業界の枠にもとらわれずに対応をすれば、大きなビジネスチャンスにつながる可能性があるのだ。
この2 つの業際を越え、課題を解決する大きな力となるのが、中堅社員の「巻き込み力」だと私は考えている。巻き込み力とは、周囲と効果的にかかわりながら協力を引き出して仕事を進め、成果を上げる力のことである。
昨今、多くの組織が「タコツボ化」している。タコツボ化とは、セクショナリズムが蔓延した組織の状態や、自己完結して積極的に周囲にかかわろうとしない社員の状態などを指す。中堅社員たちも今まさにタコツボ化している。しかし、彼らには巻き込み力を発揮して、効果的な組織運営のために貢献してもらわなくてはならない。
中堅社員の巻き込み力が低下している理由
近年、日本企業の中堅社員の「巻き込み力」が低下している理由は大きく2 つある。1 つは「人を巻き込もう」という発想自体が乏しいこと。彼・彼女らの多くは「周囲の力を借りると迷惑がかかる」とか「他人の力を借りると周囲から能力がないと思われる」などの誤解をしている。また、「人とかかわって仕事するのは面倒」と感じており、「仕事は極力自分1 人でしたい」という間違った考え方を持ちがちである。
もう1 つの理由には、コミュニケーション能力の低下が考えられる。学生時代から自分と同質の人間とばかり付き合ってきた傾向があると言われるが、結果、自分とは違う立場の、異質な人とのコミュニケーションが苦手な人が増えている。そして、異質な人との関係で起きる軋轢への恐れで“巻き込む”ことに腰が引けている。これにさらに社会的背景の変化が拍車をかけている。たとえば雇用形態の多様化――職場に、契約社員・派遣社員・パートなどさまざまな雇用形態の人が働いているなどといった理由で、周囲とのコミュニケーションの難易度が上がっているのだ。
まずは、中堅社員の意識を変える
しかし中堅社員ともなると、仕事が徐々に高度になってくるので、成果を上げるには上司、部下、後輩、他部署、さまざまな人を巻き込んでいくことが求められる。その中でも最も重要な相手は、管理職である上司だ。なぜなら、さまざまな決定権やリソースを持っているのは上司だからだ。上司の協力を引き出せなければ、自分が思うような仕事はできない。