連載 ベンチャー列伝 第17 回 “ 1年8部署”異動研修で 新卒をゼネラリストに育成
メッキメーカーの真工社では、次代を担う層として新卒採用を2008年に開始。採用した新卒を、1年でなんと8部署回らせる。
1人で多彩に活躍できる多能工、そして全体を見渡し、問題解決のできるゼネラリストとするべく育成を行っているのだ。
この取り組みは全社的な改善を促進、育成の連鎖をも生んでいる。
人材の確保と育成費用は「使うべきコスト」
真工社は1922年創業の歴史あるメッキ専業メーカー。主に自動車部品や、蛇口などの水回り部品などのプラスチックメッキを行う企業だ。その3 代目社長である眞子岳志氏が同社へと入社したのは、大学を卒業して約4 年間会社勤めを経た後の、2000年のことである。
「2007年に社長へと就任しましたが、この頃から世の中の景気が徐々に悪化して、先の状況には厳しい側面もありました。しかし、経営には削るコストがあると同時に、使うべきコストがあります。当社の次の展開を見据えれば、 人の採用と育成にかかわる費用は、削ってはいけないコストだと考えました」(眞子氏、以下同)
同社ではそれまで、採用といっても中途採用がほとんどで、新卒採用は行っていなかった。一方、他の同業大企業では定期的な新卒採用を行い、人材への積極的な投資を行っていた。眞子氏はそれをうらやましいと思うと同時に、自社もいずれはそうなりたいと思っていた。これからメッキ会社として成長していくには、研究開発に力を入れる必要がある。下請けでモノを造るだけではなく、自分たちの価値を提供できるビジネスモデルへと転換していきたいと考えていたからだ。それを実現するにはやはり人材の確保と育成が先決である。そこで眞子氏は社長に就任すると、新卒採用に踏み切った。2008年4 月入社の新卒募集活動を始めたのである。
現場を見せてミスマッチをなくす
新卒採用開始前に眞子氏が気をつけたのは、「理想と現実のマッチング」だ。説明会や面接では今後の夢などを眞子氏が語っても、実際に入社して行う現場(工場)での仕事は地味で、体力的にもきついものが多い。そこで入社希望者には、事務所だけではなく工場なども案内して、会社全体を見てもらったという。
「こういう職場で君たちは働くのだけども、本当にいいのかい?
と、何度も問いかけました。それでも入社したいというのなら内定を出そうと思っていたのです。予想では残るのは半分くらいかな、と思って多めに内定を出したのですが、まさか8 人全員が辞退せず入社してくるとは思いませんでした(笑)」
内定後も夏と冬に現場での研修を行うなど、マッチングは続いた。眞子氏のこうした姿勢は功を奏したようで、この時入社した8 名は3 年経った現在も辞めていないという。新卒者は3 年で3 割が離職すると言われる中で、この定着率は高いと言える。
何より、眞子氏には確固たる人材像があった。今後、会社として成長していくには、単に優秀な技術者だけがいる集団では通用しない。社会人としての常識やスキルを持ち、ゆくゆくはマネジメントや経営を任すことのできる人材が必要だと考えていたのである。ベースとしてのビジネススキルと、同社で必要とされるスキル、そしてこれからの時代に即応したテクニカルスキルを身につけてもらうためにはどういった教育を行えばいいのか──これが、当時の眞子氏にとって大きなテーマだった。
1年で8部署を回る育成ローテーション
そこで眞子氏は、2008年の新入社員たちには、1 年間をかけて研修を行うことに決めた。製造、品質管理、生産管理、生産技術、総務の5 部署でそれぞれ1 回当たり3 週間の研修を、年3回実施したのである。