My Opinion③ ジュニアボードへの参画が 中堅社員の“覚悟”を誘発する
ジュニアボード(擬似役員会)は、もともと経営改革や組織活性化のための仕掛けであった。
それが徐々に、30 歳前後の層をジュニアボードに参加させることで、次世代人材育成や、人材の底上げ策としても有効であると考えられるようになった。会社経営について考える機会を与えることで、目線が上がり、行動が主体的なものに変わってくるという。ジュニアボードを人材育成施策として活用するポイントを紹介する。
経営センスを育てる手法ジュニアボード
経営に若手や中堅社員の斬新な意見を取り入れて組織の活性化を図り、さらには経営のセンスを身につけた人材を育成するために用いられる手法がある。――ジュニアボード――この手法を一言で言えば、社内の中堅クラスにいる社員を対象とした、“擬似役員会”である。その主要メンバーを、一般に「ミドル」と呼ばれる経験豊富な30 ~40 代で構成するならば、そこで議論され、提案される施策は、経験に裏づけされた実効性のある内容が中心になる。役員会さながらの経験を通じて、次世代を担う幹部が育っていく。一方、主にもう少し若手の30 歳前後のメンバーで運営すると、育成の意味合いが強くなる。
ジュニアボードの起源は1930 年代の米国に遡り、コショウなどの香辛料で有名なマコーミック社において始められた。1932 年にC・P・マコーミックが弱冠36 歳で新社長に就任したが、1 人では経営に不安があり、本来の役員会の他に、中堅社員も参加する擬似役員会や各種の委員会を設け、従業員の意見を経営に反映させようとしたものだった。世襲制から集団指導体制へスムーズに移行するための、傑出したアイデアと言える。マコーミック社ではこれを「複合経営制(MultipleManagement)」と呼び、擬似役員会をジュニアボード(Junior Board ofDirectors)と称したのである(図表)。
ジュニアボードへの参加は、公募制にしてもいいし、上長の推薦に基づく選抜方式もあり得る。また、全社的な若手の底上げ施策として、ある一定の年齢層の全員を対象に実施する方法もある。どれを選ぶかは、制度の導入目的次第ということになろう。
しかしどのような場合であっても、若手をジュニアボードに参加させることによって鍛えられると期待できる能力には、次の3 つがある。
① チームワークで何かを創り上げる体験を通じて磨かれるコミュニケーション能力
② 財務データや市場データの分析による計数能力
③ 擬似的ではあるが役員会に参画することで養われる戦略策定能力
注意すべき点は、ジュニアボードを単なる若手のガス抜きプロジェクトにしないこと。単に施策を考えさせて終わりにするのではなく、ジュニアボードの活動の中から10 の施策が出てきたとすれば、そのうちの2 つでも3 つでも実現の方向へ進めるという経営の“本気感”が必要だ。なぜなら、「自分たちで立案した施策が動いた」ということを体感することによって、有望な若手中堅人材の中に眠っていた能力が目を覚ますかもしれないからだ。