My Opinion② 失敗力をつけた中堅が 上下をつなぐ“ハブ”になる
「30 歳になる前に組織・会社で結果を出せ」と吉山勇樹氏は著書の『25 歳からの仕事のルール』で呼びかける。
結果を出すには、「堂々と失敗して、汗をかけ」と言う。失敗を恐れ、チャレンジをためらう中堅社員に「失敗力」をつけさせることで、持てる可能性を最大限に発揮できるからだ。まさに鍛え時で、上司世代と若手世代の橋渡し役である中堅社員を育成し、組織を活性化するためのルールとセオリーを語る。
上司と新人のギャップを埋める
26 歳から30 歳ほどの中堅層の育成の意義は、「ハブ・マネジメント」である。「ハブ」とは運輸業やIT 関係でよく使われる専門用語であり、ネットワークの大きな結節点を意味する。
中堅層は、新入社員から入社2 ~ 3年目の若手と、課長職以上のマネジメント層の中間にあってハブ機能を果たす。いわば橋渡し役である。橋渡し役になって運ぶものは何かといえば、全部で3 つある(図表)。第1 にシェアード・バリュー、つまり組織の構成員が共有すべき判断基準のハブである。ここがブレると、組織における理念の実現や目標の達成が危うくなる。だが、「ゆとり世代」と呼ばれる新人や若手と旧世代では、もともとまったく異なる価値観を持っている。いわゆるジェネレーションギャップだ。
たとえば、ある中小企業の社長からこんなエピソードを聞いた。遅刻してきた新人に対し、「遅れてきた理由を説明しなさい」と問い質したところ、「朝、テレビの占いを見たら、自分の星座の運勢は最下位で、時間にゆとりを持って行動しましょうというご託宣があったので、遅刻してきました」と、反省のそぶりもなく答えたそうだ。旧世代の価値観では理解の難しい論理である。まるで意味不明の宇宙人の言葉のように聞こえる。新世代と旧世代の間には、これほどまでに大きな価値観のギャップが内包されている可能性がある。この点を認識しておかないと、組織の中で共通の価値観をつくろうとしても、絵空事になってしまう。
年齢が若手に近い中堅社員であれば、若手と管理職層という異文化間の翻訳や橋渡しができる。そのような機能を組織の中でより良く発揮していくことで、中堅社員の存在意義が高まる。
第2 に、中堅社員はコミュニケーションのハブ機能を果たす。若手社員は上司から「飲みニケーション」へ誘われても、平然と断る人が多い。こうした人は上司との関係よりもプライベートな事情を優先させることに、後ろめたさも感じない。一方、断られた管理職層は寂しいだろう。
そこで中堅社員の出番だ。両者の間がコミュニケーション不全に陥らないように、中堅社員が仲を取り持つムードメーカーになればいい。彼らにとって、若手社員はほんの数年前の自分であり、管理職層は数年先の自分である。それぞれの立場や心情に配慮することは、それほど難しくないはずだ。
中堅社員はOJTのハブ機能を果たす
第3 に、OJT のハブである。中堅社員が指導を任される若手社員は、“仕事のルール”を体得する途上にある。それまでの人生経験を通じて、お金にも遊びにも、生き方にも一種のルールがあることは理解している。同様に、仕事にもルールがあると知り、それに適応する段階にある。仕事のルールとは、たとえば、物事の優先順位を判断し、期限までに最も効率よく進める段取りの仕方であったりする。決して金科玉条のようなものがあるわけではなく、現場でさまざまな体験をして体得していく。若手には体験こそが必要だ。
ところが、経験のない人ほど失敗を恐れる。そろそろ自分も一人前として認められたいと思うあまり完全主義的になり、いちいち考え込む。だが挑戦をためらえば、成長のチャンスを逃す。失敗から何かを学ぶ「失敗力」が若手社員を育成するカギである。
若手社員が“安心して”失敗できる環境づくりと、気軽に相談できる環境づくりが大切である。そのような環境をつくれるのが中堅社員ではないだろうか。私が提唱しているのは、「ソウレンホウ運動」である。報告してから相談では遅いので、相談が先に来る。ただ、忙しい現場では、若手社員が相談しようと思っても、プレイングマネジャーとして自分の目標達成にも追われている管理職層は「あとにしてくれ」などと言ってしまいがちだ。そういった場合に、両者を取り持つ中堅社員の役割発揮が生きてくる。
会社によっては、定期的に相談と交流の場を設ける例もある。いきなり飲みニケーションが難しければ、まずは気軽にランチミーティングから始めてはいかがだろうか。通常の会議形式ではどうしても雰囲気が硬くなり、優等生的なやりとりになってしまうので不適切だ。本音が引き出されるラフな雰囲気をつくりたい。