ATDの風 HR Global Wind from ATD <最終回> ATD2017 Japan Summitレポート
米国で発足した人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の
日本支部ATD-IMNJが、テーマ別にグローバルトレンドを紹介します。
2017 年12月7月、ATD 2017 JapanSummit が、東京都千代田区で開催された。テーマは「ラーニングカルチャーの創造とテクノロジー」。世界最先端トレンドに触れる絶好の機会であったと同時に、会場内にて参加者同士のネットワーキングやラウンドテーブルセッションもあり、大いに盛り上がった1日となった。シリーズでお伝えしてきた「ATDの風」最終回ではATD 2017Japan Summitの内容を報告し、日本のL&Dについての学びと示唆をまとめておきたい。
■ラーニングカルチャーの創造
大会は、ヒルトン・ワールドワイドの元CLO、Kimo Kippen氏の基調講演からスタートした。ホスピタリティの醸成度や顧客満足度をKPIとするヒルトンの人材開発とラーニングカルチャーは、業界において大きな影響力を持っている。
近年、急速にフランチャイズ展開が進み、全世界で1.7日ごとに新たなホテルがオープンしている同グループ。Kimo 氏は、人材開発のスピードを上げて多くのリーダーを育成していくことが急務であることを強調し、「ラーニングカルチャーを創造する鍵とは何か」と会場に問いかけた。
Kimo 氏が挙げたキーワードは“Wholeness(一体性)”だ。多様な要素を集め、結合させることが、ラーニングカルチャーの創造に不可欠であるとすれば、人事にできることは多いという。
また、経営目標・目的の明確な設定や、人事・人材開発部門の役割も重要だが、組織能力、組織のケイパビリティ(遂行能力)開発を成功させるためには、経営陣のスポンサーシップ、支援が不可欠である、と語った。
ヒルトンでは、ヴィジョン、バリュー(ホスピタリティ、インテグリティ、リーダーシップ、オーナーシップなど)に共感する従業員、チームメンバーは、自身の存在意義、働きがい、究極的には生きがいを職場や仕事の中に見いだす、とKimo 氏は説明する。ヒルトンがヒルトンで在り続けるために従業員が連携し、さらに素晴らしい組織を創造することにつながる好循環があるという。
全体に、人事自らがオーナーシップを持ち、感謝して学び続けるべきであることを教えてくれた講演だった。また、Ki mo 氏の締めくくりの言葉は、会場をとても暖かい雰囲気で包んでくれた。「Work is love, Love is work.」。
■ブレンド型学習のインパクト
2020 年には、我々が予想もつかないような新たな学び方が主流になるだろうといわれている。AI、ロボットの本格的な活用の時代に入り、今後も人材開発・組織開発の考え方は急速に変化を遂げることが予想される。
Infosys L&Dの元DirectorであるAmit Nagpal 氏は、ブレンド型学習「エコ・ラーニングシステム」がもたらすインパクトについて紹介した。Infosysでは、既に5年程前からタレント・マネジメントシステム、パフォーマンス・マネジメントシステム、Expert ナレッジセンター、SNS、相互コーチングシステム、フォーマル・ラーニング(e-ラーニング、集合研修)などと、LMSの連携による「エコ・ラーニングシステム」を実践してきた。
リーダー開発プログラムにおいてもブログやツイッターを使った、アクションラーニング・プロジェクトの経験の共有や、リーダー間でのインフォーマルな意見交換が活発に行われている。
離職率が40 ~ 50%に上り、継続的に年間8000 人を採用してきたという同社の状況は日本企業と大きく違うものの、学ぶべき点は多々あると感じた。
何より同社はミレニアム世代に代表されるNew Age Learnerを研究し、ラーニングカルチャーの創造を牽引してきた。その結果、従業員のリテンションが成功しつつあることはもとより、高い顧客満足度や、リーダーシップパイプライン(体系的なリーダー育成の連鎖)の構築、低コストなスケーラビリティ(規模変化への対応)を実現している。
日本ではまだまだフォーマル・ラーニングの提供に時間が割かれ、ラーニングカルチャーの醸成については大きく出遅れている。しかし、同氏の講演から、組織内にブレンド型学習を取り込んでいくために何が必要なのか、あらためて知ることができた。
最後にAmit 氏は、相手の表情から察することの重要性や、人間の感情の微細さを挙げ、テクノロジーが全てを解決するわけではないと付け加えた。