寺田佳子のまなまな 最終回 裁判傍聴芸人 阿曽山大噴火さんに聞く 「自然体」で磨く個性とキャリア
最終回に登場いただいたのは毎日、東京地裁に“通勤”する阿曽山大噴火さん。
人知れず行われる「B級裁判」に魅力を見いだし、傍聴し続けること約20 年。
取材をネタにお笑い、著作、講演と活動の幅を広げています。
ユニークなキャリアはいかにして積み上げられてきたのでしょう?
「個の時代」を生き抜くヒントを探りました。
川の流れに身をまかせ
今回のまなまなのお相手は、裁判傍聴歴19 年の、阿曽ちゃんこと阿曽山大噴火さんである。ニュースや新聞で伝えられることもなく、傍聴人も下手すりゃゼロの、人知れずひっそりと行われている小さな裁判を取材して、そこで繰り広げられる人間模様や、関係者の“珠玉の迷言”を拾いあげ、心温まるお笑いネタにする、日本で唯一の裁判傍聴芸人だ。
ファンのひとりとしてはぜひ、阿曽ちゃんの類い稀なる“傍聴力”の秘密と、“金髪にヒゲ、そしてスカート”というファッションへの“こだわり”がお聞きしたかったのだが……。
意外なことに、子どもの頃から「ナニがナンでもこうしたい!」という熱いタイプではなかった、という阿曽ちゃん。専門学校を卒業後、就職したTV番組制作会社を1年ちょっとで辞めた理由も、
「遅刻しそうになっちゃったので」。
なんとも気弱な言い訳である。
とりあえず始めたバイトの後で、ちょくちょく足を運んだのが「お笑いライブ」。ある日、その会場で、「オーディションの参加者募集」のチラシを目にして、ふと考えた。
「ふ〜ん、トークライブみたいなものかなぁ。芸人さんと話ができるかもなぁ」
というわけで、オーディション本来の目的とは少々ズレた期待を胸に、会場にやってきた阿曽ちゃん。他の参加者たち、つまりお笑い芸人の卵たちが全力で自己PRし、とっておきのネタを披露しているのを見て、思わず、「みんな、すごいなぁ」とひたすら感心した。
まるで、他人事である。
しかし、その控えめな態度が良かったのか、はたまたヘタに“染まってない”感じがウケたのか、理由は定かではないが、阿曽ちゃんはそのオーディションに合格してしまう。
それから、「週1日のネタの練習と週6日の電話番」の毎日が始まった。3カ月ほどして新人ライブで舞台デビューも果たしたが、
「初めての舞台で緊張したかって?う〜ん、覚えてないんですよねぇ。これ、まずいですよねぇ」
と、これまた「ナニがナンでもウケたい」とは思わなかった無欲の初舞台。何はともあれ、「川の流れに身をまかせる」ように、お笑い芸人としてのキャリアがスタートしたのである。