THEME「グローバル人材」 日系グローバル企業は多国籍にあらず 「二国籍」マネジメントでは アジアの人的資源が枯渇する
優秀な人材が確保できない―グローバル展開する企業に共通の悩みではないだろうか。
なぜ人が育たないのか、採れないのか。
長年来の問題に明快に答えるのが、東アジア、中国などの人的資源管理に精通する白木三秀教授だ。
2000 年11月号記事「アジアにおける欧米グローバル企業の人的資源管理」を振り返り、打開策を提案いただいた。
20年先に進んでいた欧米企業
─ 30年前、日本企業の海外展開はどのような状況でしたか。
白木三秀氏(以下白木)
戦後、日本企業の海外オペレーションが始まったのは1960 年頃です。当初は大手のセットメーカーが中心で、主な進出先はASEAN諸国やNIEsでした。1985年のプラザ合意で円高が一気に進むと、中小企業を含めた日本企業の海外展開が本格化します。1980 年代後半5年間の日本企業による海外直接投資件数の伸び率は、大企業が毎年20〜30%だったのに対して、中小企業は200 〜300%に上りました。しかし、1990 年代に入ると、バブルが崩壊したため、日本企業の海外直接投資は停滞します。
私自身、アジアに進出する日本企業を研究し始めたのは1980 年代からでした。1990 年代には、アジアに進出している欧米企業も訪問しました。
─当時、アジアに進出している欧米企業は、どのような人材マネジメントを行っていましたか。
白木
先進的な企業は、既に1990 年代の時点で、世界中の人材を有効活用するためのシステムを確立していました。特徴のひとつは、世界本社が海外のオペレーションに強くコミットしていることです。例えば、GE(ゼネラル・エレクトリック)では世界中のシニアスタッフを米ニューヨーク州のクロトンビルの研修所に集め、GEの経営理念を共有します。ネスレも、世界本社のあるスイスの企業内研修センターに世界各国のスタッフを集め、トレーニングをしていました。
もうひとつは、将来のトップ人材候補を世界中の子会社から選抜することです。そのために、各子会社のトップは、自社内から30 歳前後のハイポテンシャル人材を選抜することに責任を負っています。
GEの場合、29万人の従業員の中から数百人が選抜されます。世界本社は、その人たちに3つのアサインメントを与えて育成します。1つめのアサインメントは、異なる事業を担当させること。GEの事業は、発電、航空機エンジン、医療、金融など多岐にわたっています。その中から、これまで経験したことのないビジネスに携わってもらい、3〜6カ月でキャッチアップさせます。2つめは、異なるファンクションを経験させること。例えば、今まで人事を担当してきた人であれば、営業や財務など、全く違う仕事に就かせる。そして3つめは、異なる国に赴任させることです。
こうすることで、事業・ファンクション・国を限定することなく、企業全体をマネジメントできるグローバルな人材を育て、その中から将来のトップマネジメントを選んでいくのです。同様の選抜育成の仕組みは、GEだけでなくシーメンスやユニリーバなども採用していました。