THEME「戦略人事」 このままでは育成機能は捨てられる! 日本企業が今すぐ着手すべき 戦略人事・育成 5つの変革
長年にわたり、日本における人事マネジメントを理論の面から先導してきた守島基博教授。
本誌においても、たびたび重要な提言や解説を行ってこられた。
なかでも2000 年12月号の記事「戦略人事とは何か」は、
日本企業の人事がめざすべき方向を提示する内容であった。
それから18 年。日本企業の戦略人事における進展度合いと、人材育成に関する課題と対策を聞いた。
「戦略人事」の進展は?
―2000年12月号の特集で「戦略人事とは何か」をご提言いただきました(図1)。記事を読み返して、今お感じのことは。
守島基博氏(以下守島)
振り返ってみると、私の主張は18 年前から変わっていません。裏返していえば、同じことを言い続けなければならなかったということです。戦略人事の必要性は、当時よりさらに高まっています。
一方で、人事・人材開発の置かれている環境には、変化した点もあります。今、人事の最大の課題は、採用とリテンション(定着)です。教育は、人を採用できて、リテインできて、初めて成立します。しかし2000年当時、特に大企業は、採用とリテンションにはあまり困っていなかった。だから、採用した後で、自社の戦略を実現するためにどう育成するかを考えればよかったのです。
ところが昨今は、その前提が崩れたことで、人材育成には、「戦略を実現するための人材をつくる」という本来の役割に加え、教育機会が豊富にあるからこの会社に入社する、もしくは残るという、一種のインセンティブとしての意味合いも大きくなってきました。
―採用が難しくなり、戦略に合う人材を必死に確保している状態ですか。
守島
採用が本当に難しくなったのはここ1~2年です。大企業では今でもまだ、全く人が採れないという感覚はお持ちではないでしょう。それよりも、「厳選した人材を採り、戦略に合わせて育成していこう」という流れができてきました。
また、戦略変化のスピードが速くなり、新入社員から育てていては間に合わないと、多くの企業が中途の経験者採用にシフトしてきています。
ただ、そうした中でも戦略人事の方法論の原則は変わりません(図2)。人材像を明らかにし、ポートフォリオを構築し、それに合わせた人を採用し、パフォーマンスマネジメントなどを行っていくというステップは同じです。
―「戦略人事」という言葉自体は浸透してきました。日本企業の進展度合いは、どのように見ておられますか。
守島
多くの企業が戦略人事を行おうとしていると思います。
そもそも、企業にとって戦略人事が本当に必要となるのは、戦略が変わる時です。新たな戦略を担える人材が必要になりますので、部分修正では立ち行かなくなります。日本では2000年ごろから10 年ほどの間に、多くの企業が、戦略を大きく転換しなければならない状況に直面し、その過程で、「戦略に合わせて人材を確保する」という考え方が定着しました。
そのための方法論も確立されてきました。先の記事でも紹介した「パフォーマンスマネジメント」と並行して、「タレントマネジメント」という考え方が出てきました。タレントマネジメントやパフォーマンスマネジメントが多くの企業で議論され出したのは2010 年ごろからですが、さらにこの1 ~ 2 年ほどは、「HR Tech 」と呼ばれるさまざまなデジタルツールの進化により、人事が行えることの量やスピード感、適用範囲が大きく変わりました。