学び方改革1 内省支援と上司との関係性が鍵 最近の若手の傾向に合った 学び方改革とは
働き方と同じように、企業における学び方も変化している。
顕著なのが新入社員をはじめとする若手の学び方だ。彼らの学び方は、どう変化したのか。
またそれに伴い、社内のOJTや、上司やトレーナーの関わりも、どのように変えていく必要があるのか。
博報堂で、若手や新入社員の育成に長年携わってきた白井剛司氏に話を聞いた。
2010年がひとつの境目
―貴社、そして白井さんは2005 年ごろから、若手教育や新入社員のOJTの変革に注力されてきましたが、最近の職場や若手の変化についてどう捉えていますか。
白井剛司氏(以下白井)
最初にお断りしておきたいのですが、これからお話しすることは私自身が、当社で実践してきた取り組みを通して考えたり感じたりしたことになります。
まず、2010 年頃を転換期として、新入社員や若手の性質が変わってきています。どう変わったかといえば、経験するより前に学ぶ志向が強くなってきたように思われるのです。「経験前に学ぶ」とは、事前に手順や仕事の全体像を学んでから、実体験で理解を深めるということで、「演繹的学習」と言えます。
かつては「まず先に経験する」学び方が主流でした。読者の皆さんの中にも、経験を繰り返して試行錯誤しながら学んできたという方が多いのではないでしょうか。このような学び方は「帰納的学習」と言えるでしょう(図1)。
誤解がないように強調しておきたいのですが、これは育ってきた環境の違いによるもので、どちらが正しいということではありません。幼い頃からデジタルデバイスやソーシャルメディアに慣れ親しみ、情報が溢れている環境で育った彼らにとっては、得られる情報は先にインプットしておく学習スタイルのほうがなじみやすいのでしょう。
実際、社内でとったアセスメントでも、また他のアセスメント提供会社の調査でも、2010 年を節目に傾向が変わってきているそうです。なお、他者とつながりたいという欲求や、アイデア志向、リスクテイク志向は、上の世代よりも2010 年以降の若手のほうが高いといわれています。
その2010 年入社前後の世代が今、現場を動かす中核に入ってきていますので、教える側や職場の価値観自体が若手世代に大きく振れる可能性が出てきています。
したがって、今後は彼らの良さを取り入れたうえで、学び方、学ばせ方を変えていく必要があります。まず先に経験する世代は、こうした若手を「行動が消極的」「教えてもらわないと動けない」などと批判してしまいがちですが、それでは健全な学びにつながりません。また、経験より先に学ぶ世代から見れば、知識を与えずに突然やらせるのは、とても乱暴に思えるのです。
「サーチライト型」成長モデル
白井
現場の悩みも、それに伴い変化してきているように感じますが、背景には、職場環境の変化があると考えています。
かつて、10 年ほど前までの職場では、中心にロールモデルが存在し、新人は先輩に手取り足取り教えてもらいながら中心に向かって緩やかに成長していくのが一般的でした。いわば「サークル型(正統的周辺参加)」の成長モデル(図2-1)です。
しかし、ICTの普及により職場や仕事の高度化や効率化が進み、これまでの成長モデルが通用しない時代になりました。今の職場では、絶えず変化する事業領域に少人数でスピーディーに対応していくことが求められます。上司や先輩が経験していない業務を、先に新人が経験することもあるでしょう。事業領域も、いつどのように変わるか分からないので、1つの領域を極めれば安泰ではありません。成長イメージを抱いても、仮説でしかなくなっています。
つまり、自分の成長イメージをサーチライトのように模索しながら力をつけていく時代になってきたのです。私はこれを「サーチライト型」の成長モデルと呼んでいます(図2-2)。
近年、「経験学習」が人材開発業界で注目されていますが、このように変化が大きく先が読めない時代には、以前のように、誰かを真似てモノにすることができません。ですから、社員一人ひとりが、経験から自分で気づきを得て、学び取っていくしかないのです。これは新人、若手に限った話ではなく、全ての社員にいえることではありますが。
博報堂はOJTをどう変えたか
―貴社ではこれらの変化にどのように対応しているのでしょうか。
白井
当社ではもともと新入社員のOJTに力を入れており、2007年からは育成体制の改革も行ってきました。