巻頭インタビュー 私の人材教育論 経営も人材育成も、 上から目線ではなく、自ら考え、 当たり前のことを当たり前に
業績好調中のドラッグストア大手、マツモトキヨシホールディングス。
5100万人超の個別接点や、事業子会社の収益改善等の改革が推進されている様子だが、松本清雄氏が2011年の事業会社マツモトキヨシ社長就任の際に創業時の自由闊達な社風をめざすためにつくり上げた「マツモトキヨシWAY」により、全社が一丸となっていることも、ひとつの勝因に見える。
その背景には、松本社長が大切にしている、顧客や従業員への想いがあった。
売上重視から収益性重視に転換
―先代から社長を継いで3年。社長就任後、売上重視から収益性重視の経営へと舵を切りました。その狙いを教えてください。
松本
我が社はドラッグストア業界で売上ナンバーワンの座を長らく守ってきました。しかし、いかんせん、利益率が低い状態でした。株主総会では経常利益率5%以上をめざすとずっと言ってきました。収益を改善しないと、M&Aなどで規模を追求していくことも難しい。そこで単なる売上規模拡大から、収益改善に集中することにしました。
―どのようなやり方で収益改善をめざしたのですか。
松本
販管費にメスを入れつつ、店舗ごとに商品の価格を見直し、現在はお店やエリアごとに市場に合った価格設定をしています。
他も、地味な作業の繰り返しです。例えば、費用対効果の低い販売促進策を効率的かつ効果的な施策に見直し、グループの重要業績評価指標、いわゆるKPIを設定し経営の効率化を進めました。収益を改善するには、こうしたムダを一つひとつ見直していくしかありません。
―収益改善策の積み重ねで、経常利益率は5.8%(2017年3月期)と大きく改善しました。今後の経営戦略を教えてください。
松本
小売業の基本的な仕組みは昔から変わりません。会社の規模が大きくなったり、デジタル化が進んだとしても、商品を仕入れてお客様に届けることで利益を得るという仕組みはずっと同じであり、原価や人件費が必ず発生します。営業利益率が6%近くまで上がってきた現状は、ひとまずいいところまでたどり着いたと考えています。
一方、小売業は泳ぎ続けないと死んでしまうマグロと同じで、出店を続けないと成長できません。前期は収益改善のために、利益率の低い店舗を中心に87店を閉めました。新規で97店を出店したので純増は10店です。収益改善にめどがついたので、今期は30店舗閉店の新規100店出店で、70店舗を増やす予定です。今後も100店出して30店閉めるというペースで成長をめざします。
ただ、かつてと同じように規模拡大だけをめざすわけではありません。日本の人口は減少時代に入りました。長い目で見れば客数は増えず、かといって各世帯の購買力が倍になることも考えにくい。インバウンドが注目されていて、我が社もその恩恵を受けていますが、いずれは規模の拡大理論が通じなくなる時が来ると思います。
だとすると、今後は規模を追求しつつも、お客様に提供する価値の中身を濃くしていくことを考えなくてはいけません。お客様の喜びを、いかに最大化するか。これからは、そういった視点がより重要になるでしょう。
トップダウンでは人材が育たない
―お客様に提供する価値を最大化するためには、どのような人材が必要でしょうか。
松本
お客様を幸せにするには、まず従業員が幸せになる必要があります。従業員自身が幸せなら、心から笑顔になれて、お客様をも笑顔にすることができる。まずはここからです。