人材教育最前線 プロフェッショナル編 “本気”の先に見える世界を伝えたい 目の前の仕事から学び続けた変革者
不動産流通大手、東急リバブルの野中絵理子氏は、人材開発部のトップを
務める。男性中心といわれる不動産業界において、特別な存在だといえるだろう。
アシスタント職からキャリアをスタートさせて現在に至る野中氏は、「多く
の女性社員に、“働き続けること”による面白さを味わってほしい」と語り、ダ
イバーシティ推進にも精力的に取り組んでいる。その原動力は何なのか話を聞いた。
やったことがないほうを選ぶ
不動産流通は営業が中心であり、男性社会の業界とされるが、ここ数年、その傾向に変化が見られる。東急リバブルが、2013 年に業界大手では初めてダイバーシティの専門部門を設けたことは象徴的な出来事といえるだろう。同課を率い、現在は人材開発部長も務める野中絵理子氏は、働き続けることでこそ得られるものがあると語る。
「仕事に本気で取り組んだ先には、成果が残るものです。しかし、成果だけではなく自分自身の成長や変化を味わうこともできます。それは一朝一夕で手に入れられるものではなく、長い時間をかけ、心の底から手応えを感じる瞬間に味わうことができるもの。他の何にも代え難いもので、仕事を続けてきた人であれば必ず出合える可能性があります」(野中氏、以下同)
男性の多い不動産の世界でキャリアを積み上げてきた野中氏だけに、実に重みのある言葉である。
大学を卒業し、間もなくして父親が他界した。「生きていくために働くのだ」という自覚があった。そして入社して最初の3年、担ったのは庶務の仕事だった。
「現在でいう一般職で、営業所のスタッフを事務面でサポートするような役割ですね。労務管理や書類作成など、お客様を直接担当するわけではありませんが、営業所を支えている自負がありました」
結婚後も、自分自身が生きるために働き続けるのは当たり前だと思っていた。できることが増えると素直にうれしかったし、いつしか、新入社員の面倒を見るようになっていた。
「一般事務職として入社した社員の実習先として、私が働いていた営業所には絶えず新人がやってきました。まだ仕事に慣れていない新人たちは、最初は失敗ばかりで時には涙を見せることもあります。しかし、仕事をこなせるようになり、徐々に意識が変化していく。その変化(進化)は、非常に興味深いものでした」
実習を終えた新入社員が巣立っていくたびに、やりがいを感じた。同時に、気づいたこともある。それは、人が育つために「教育」でできることには限りがあり、成長を決めるのは本人次第だということだ。だからこそ、教育には本人の“意欲”を支える工夫が求められるのではないか――。
そうは言っても、営業所の庶務は主にルーティンワークである。野中氏自身、3年目になると仕事の慣れから、「これは、10 年、20 年と長くは続けられないかもしれない……」。そう思い始めていた。その頃、定期面談で上司からこんな言葉を告げられた。
「『一般事務職では今の職位が上限で、これ以上処遇は上がりません』と言われたんです。これは衝撃でした」
しかし上司の話には、続きがあった。これを機に職掌転換をしないかと言われたのである。想像しない展開だったが、断る理由はなかった。