ATDの風 HR Global Wind from ATD <第5回> ATD 国際会議&エクスポ2017のレポート
米国で発足した人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の
日本支部ATD-IMNJが、テーマ別にグローバルトレンドを紹介します。
今年のATD国際会議&エクスポ(ATD-ICE)は、5月21日〜24 日の日程で、米国ジョージア州アトランタで開催された。
14 にわたるカテゴリーで全300 セッションが組まれたが、もちろん全てに参加することはできない。数十のセッションが同時に開かれたため、4日間で参加できるセッションは1人15、16程度が限界だったと思われる。つまりICEの情報は、まるで巨大な象のようで、一人ひとりは象の鼻や尻尾、足を触って全体を推察しているだけということになる。
鍵になるのがセッションの合間に行う参加者同士の情報交換だ。ICEの参加者は世界約1万人と幅広い。今回も78 カ国より参加があり、人事や人材開発の部長レベル・経営者(25%)、トレーニングや開発に関わる管理者(30%)、ベンダーも含め、直接開発実施実務に関わる専門家(25%)、コンサルタント(20%)と、バラエティーに富んだ顔ぶれとなった。それだけに、印象に残るキーワード、捉え方も人それぞれである。こうした情報に触れることで、象の全体像を自分なりに把握することが可能となる。
もちろん、私を含め、ATD-IMNJの理事や委員も同様だ。毎年ICEに参加して人材開発の最新トレンドを定点観測しているが、期間中はいろいろな集まりに顔を出して情報交換し、参加者の多様な視点に新鮮な学びを得ている。そこで、今回は開催プログラムの内容の他、参加者たちが得た知見から、人材開発の潮流を紹介することにしよう。
今日の人材開発のトレンドは大きく次の3つにまとめることができる。
1. 多様性社会におけるリーダーシップ
近年、日本では、多様性社会におけるリーダーシップや組織の在り方についての議論が、日常的に行われるようになった。ATDでも多様な社会環境について模索するセッションは多い。その視点は「ジェネレーションGAP」「ジェンダーGAP」「文化的GAP」の3つに分けられる。
「ジェネレーションGAP」は常に掲げられるテーマである。すなわち世代の違う人たちをどのように組織の中で扱うのかという議論だ。2000 年以降、ジェネレーションXY(1960、70 年代生まれの世代と80、90 年代生まれの世代)が着目され、近年はミレニアル世代(2000 年以降に成人、あるいは社会人になる世代)の価値観や行動をどのように捉えるかという、世代間ギャップの探求が行われている。これからもこの探求は続くはずだ。マルチジェネレーションの中で働く人々は間違いなく増えるからである。
「ジェンダーGAP」は、男女の違いによるリーダーシップの在り方がテーマだ。振り返ると、過去の基調講演者にはリーダーシップを発揮した女性が数多く登場していた。元陸軍准将のクララ・アダムズ・エンダー、USAネットワークの創始者ケイ・コプロビッツ、元オラクル社の重役リズ・ワイズマン、ハフィントン・ポスト・メディアグループの創設者アリアナ・ハフィントン、元エイボンCEOのアンドレア・ジュング等だ。彼女たちのスピーチには、男性中心の社会構造への問題意識が常に見え隠れしていた。同様のテーマについては、グローバルレベルの調査データも多い。マッキンゼー社、DDI社、ゼンガー・フォークマン社等は定点観測したデータを公開して、ジェンダーレス社会への対応を提唱した。
最後の「文化的GAP」は、民族や国等、文化的背景の違いへの着目である。過去のセッションでは、少数民族やマイノリティに関するセッションが多かったが、今ではグローバル化によるリーダーシップの変化に関心が集まっている。
あるセッションでは、ヘールト・ホフステード教授による、IBMの研究から広がった多文化論を取り上げた。いろいろな国の国民性の違いを明らかにしたうえで、リーダーシップの在り方を説明する、という内容である。その中でも、日本文化の特異性は明らかとされた。とはいえ、特徴ある文化もグローバル化やSNSの広がりにより、既に新たな文化へと変わりつつあるという指摘だった。