第43回 全国の保育の現場を歩いた著者に聞く 女性活躍の裏で進む“保育崩壊” 小林美希氏 労働経済ジャーナリスト|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
「保育園落ちた日本死ね」。昨年春、ひとりの母親の匿名ブログが話題になった。
認可保育園の入園不承諾通知を受け取った女性が書いたものだ。
女性活躍推進が叫ばれる中、保育の現場では人材育成が追いついておらず、
離職、保育の質の低下が起きている。
『ルポ 保育崩壊』の著者で労働経済ジャーナリストの小林美希氏に話を聞いた。
規制緩和で広がる保育崩壊
中原
我が家は夫婦共働きで、保育士さんたちには日頃、大変お世話になっています。日々、子どもの送迎で皆さんと接する中で、いろいろ思うところもあり、今日は保育園の現状と共に、保育士さんたちの採用や育成面の課題等についてもお聞かせいただけたらと思います。さて、本のテーマの「保育崩壊」ですが、今、保育の現場で何が起こっているのでしょうか。
小林(以下、敬称略)
保育の質が低下し、安心して子どもを預けられないような状況があちこちで起きています。待機児童問題の解消のため、保育園が急増する中、肝心の人材確保や人材育成が追いついていないからです。
仕事に慣れていない保育士さんが大勢の子どもを担当せねばならず、「半年以上散歩に行っていない」「対応の難しい子どもが放っておかれる」といった問題も起きています。中には子どもが情緒不安定になるケースも見られます。保育士さんが次々と辞めていく現場も増えています。
中原
大変な状況ですね。離職率は高いのですか。
小林
民営保育園では入職2年未満離職率は17%、公立で10%弱です。保育のやりがいを知る前に辞めていく人も多いです。平均勤続年数は民間の場合、5、6年程度ですね。
中原
うちの子の保育園も1年で半数の保育士さんが入れ替わりました。派遣やパートタイムも多い印象です。そもそも、なぜ今、「保育崩壊」が起こっているのでしょうか。
小林
事の始まりは2000年に行われた規制緩和です。待機児童対策のため、民間企業も保育園運営ができるようになりました。この時、認可保育園では、地方自治体から支払われる運営費を人件費、管理費、事業費の費目間で流用することが柔軟にできるようになったのです。
しかし、そもそも保育園の運営費は人件費率が高いのが特徴。少しでも利益を出したい民間企業としては、人件費を安く抑えられるという意味で、この制度はまさに好都合だったわけです。
中原
保育士さんの需要は高いにも関わらず、賃金など待遇面が改善されなかったのは、そういう事情があったからなのですね。
小林
はい。特に新規参入した民間の保育園では、人件費のかかるベテラン人材を確保できず、現場は慣れない若手ばかりになってしまいました。結果的に離職率が高まり、保育の質が低下していったのです。保育園に入れなかった母親たちがデモを行うなど、待機児童問題がクローズアップされた2013 年以降、民営の保育園数が急増し、こうした問題がますます顕在化してきました。