シニア社員と非シニア社員の比較調査分析より シニア社員のマネジメントは 非シニア社員のマネジメントと何が異なるのか?
外国人社員や新入社員を理解する取り組みは長く行われてきたが、
シニア社員を知ろうとする試みは、あまりなされていないのが現実だ。
しかし、調査を行ったところ、シニア社員と非シニア社員とでは、
考え方も行動パターンも全く異なることが明らかとなった。
調査結果から浮かび上がった、シニア社員を活躍させるマネジメントの在り方とは。
1 はじめに
■シニア社員を理解する重要性
「異なる文化・国籍の人々への理解を深めることが重要である」という考えは、既に多くのビジネスパーソンの間で共有されている。その一方で、文化や国籍だけではなく、「年代の違う人に対しても、より深い理解が必要である」という考えは、どれほど共有されているだろうか。
新卒の新入社員に対しては、「自分たちとは異質な存在である」と感じる人が多く、毎年、「〇〇型」といったタイプ分けに基づき、理解を進める試みがなされている。それに対して、「シニア社員は、自分たち下の世代の社員といかに異なるのか」という点については、そこまで理解の必要性を感じていないのではないであろうか。
年功序列によって昇進した時代には、部下は自分より年下だったため、若い世代を理解すればそれでよかった。しかし、年功序列が崩壊し、年上の部下を持つ機会が多い今日においては、シニア社員に対する適切な理解を得ることが求められる。
また、多くの研究を通し、年齢に基づくネガティブなステレオタイプ(例えば、「年をとった人は新たなスキルを学ぶのが難しい」等の先入観)は、シニア社員によくない影響を与えることが明らかになっている。
例えば、周りの社員がステレオタイプを持っていると感じると、シニア社員は実際の自分の行動や考えを徐々にそのステレオタイプに合わせてしまう。その結果、もう自分はこの会社でやるべきことはないと感じるようになり、離職意思が高まることが、Bal等の2015年の研究において明らかとなった。
さらに、若い上司や若い同僚に囲まれているような職場では、「自分はネガティブなステレオタイプを持たれているのではないか」という恐れを持ちやすくなることが、Kulik等の2016 年の研究において確認された。
したがって、シニア社員のマネジメントにおいては、ステレオタイプに基づき彼(女)等を「理解」するのではなく、事実に基づき理解することが必要といえよう。本稿では、このような問題意識の下、シニア社員(50 歳以上の非役職者)を対象に行ったサーベイ調査の結果について紹介する。
なお、この調査ではシニア社員と非シニア社員の違いを検討するために、非シニア社員(30 代の非役職者)も分析の対象とした。両者の違いを明らかにすることで、非シニア社員に効果的なマネジメント方法を、やみくもにシニア社員に適用し失敗してしまう危険を、一定の程度回避できるだろう。それに加えて、非シニア社員には効果的といえないが、シニア社員にとっては有効なマネジメントの方法も見いだせるのではないだろうか。
2 どのようなシニア社員が、職場において活躍しているのか?
■シニア社員の調査結果分析
以下では、職場で活躍するシニア社員への理解を進めるために、「エンゲージメント」「役割内行動・手助け」「後輩社員の成長サポート」に関する分析の結果を示していく。
◇分析結果1 「だらしないシニア社員はエンゲージメントが低い」
「精力的」「献身的」「熱心」といった言葉で特徴づけられる社員は、エンゲージメントが高い社員と呼ぶことができる。シニア社員が、精力的・献身的な態度で熱心に仕事に取り組んでいる職場は、高いパフォーマンスを達成することができるだろう。
図1は、物事がきちんとしていることを好む程度が、エンゲージメントに対して与える影響を示したグラフである(オレンジ線がシニア社員、青線が非シニア社員)。「きちんとしている」とは、仕事が秩序だっていることや、打ち合わせが詳細に準備されていること、計画が綿密になされていること等を意味する。分析の結果、きちんとしていることを好むシニア社員ほどエンゲージメントが高く、いい加減な状況を許容するシニア社員ほどエンゲージメントが低いことが確認された。それに対して、非シニア社員は、いずれの場合においても、エンゲージメントは同じ水準にあることが明らかとなった。
「最近の若者はだらしがないから、しっかり指導すべきだ」といわれることがしばしばある。しかし、本調査の結果によると、30 代社員の「だらしなさ」はエンゲージメントに有意な影響を与えない。むしろ、物事がきちんとしていることを好むシニア社員を増やすほうが、エンゲージメントの改善を通した職場全体の活性化に大きく貢献する。