OPINION1 60歳以降も生き生き働いてもらうために シニアが活躍できる 職場の仕組み
2015 年、全人口に占める65歳以上人口の割合は、26.7%。
日本の高齢化は、世界最速で進んでいる。
そんな日本において企業が勝ち残るためには、
60 歳以降も稼げる人材であり続けてもらう“ 本気のシニア活用”が欠かせない。
30 年以上にわたり高年齢者雇用の研究に携わってきた内田賢教授に
求められる対応を聞いた。
個人差の大きいシニア層
2013 年に施行された「改正高年齢者雇用安定法」により、企業には希望する60歳以上の社員を65歳まで雇用することが義務づけられた。だが、多くの企業は、この雇用が成功しているとはいい難いだろう。シニア人材が、これまでの経験やスキルを十分に活かして力を発揮し、周りの社員や組織に良い影響を与え、会社の成長に貢献している。そう胸を張って言える企業が、いったいどれほど存在するだろうか。
高年齢者雇用の一番の問題は“個人差”である。企業は、仕事に対する意欲も希望する働き方も多種多様な高年齢者を65歳まで雇い続けなければならない。少し前までは、労働組合との協議により「評価が標準以上」といった基準を定め、条件に合う人だけを再雇用することが許された。ところが、希望者全員の再雇用が義務化され、働き続けるシニアは、より“ピンキリ”になった。もちろん意欲の高い人もいるが、「家にいてもやることがないから」「生計費のため仕方なく」という理由で働き続ける人も多い。
60 歳を超えると、働く人を取り巻く状況も多様になる。病気を抱えた人や、家族の事情などでフルタイムでは働けない人も増えるだろう。そんな多様な人たちを束ねてパフォーマンスを高めていかなければならない企業には、正直、同情を禁じ得ない。
とはいえ、少子高齢化の中、将来的な人手不足は避けられない。我が国の高齢化率(65歳以上の割合)は、2060 年には39.9%に達し、国民の約2.5人に1人が65歳以上になると推計されている(図1)。高齢化社会の中では、企業も自社の競争力強化を図るためのシニア活用を積極的に検討しなければならない。シニア雇用はコストではなく、彼らも含めてどう稼ぐかを考える必要がある。
シニア人材にどう対応するかということは、後に続く世代へも大きな影響を与える。製造現場でも営業部門でも、職場の神様のようなスキルを持ったシニアがいるものだ。そういう人が、給料が下がって落ち込んでいる姿を見れば、若者は「うちの会社はひどい」と考える。“明日は我が身”でもあるので、「俺たちも、いずれあんなふうに扱われるのか」とやる気を失う。一方で、「俺はもうおまけだから、給料分の仕事しかしない」と公言してはばからず、終業時刻前から帰り支度をするシニアがいると、「会社はあんなやつまで甘やかすのか」と、これもまた、会社への不信感につながる。
中小企業に学べ
一般に、高年齢者活用は中小企業のほうが進んでいるといわれるが、特に65歳以降の社員の活用でうまくいっているのは、むしろ大企業のほうだ。ただし、それは希望者全員ではなく、一部の選ばれた人材のみを活用するケース。例えばプラントエンジニアリングのプロジェクトマネジャーは、世界中で引く手あまたであり、一律の定年で退職させてライバル企業に移られでもしたら、敵に塩を送るようなものなので、市場価値で再雇用し、囲い込んでいる。
しかし、これからの時代は、選ばれた人以外も“稼げる人材”にしなければならない。そう考えると、優秀なシニア以外も雇い続け、そこから、多様なシニアを活かすノウハウを蓄積してきた中小企業から学べることは多い。