人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第58回 「ル・アーヴルの靴みがき」川西玲子氏 時事・映画評論家
「ル・アーヴルの靴みがき」
2011年 フィンランド・フランス・ドイツ 監督:アキ・カウリスマキ
フィンランドを代表する映画監督アキ・カウリスマキは、日本でも人気が高い。『浮き雲』『過去のない男』『街のあかり』は、敗者三部作という珍しい呼称で親しまれている。大げさな演出や演技を一切排した淡々とした描写で、市井で生きる人々の慎ましい日常と人生を描く。日本人好みの作風である。
この映画は、敗者三部作を完成させた後の2011年につくられた。フィンランド、フランス、ドイツの合作で舞台はフランスである。当時、既に深刻になっていた難民問題を絡ませた、現代のおとぎ話だ。
主人公のマルセルは港町ル・アーヴルで、ベトナム移民のチャングと靴磨きをして暮らしている。若い頃はパリで作家をめざしていたこともあるらしい。だが今はあまり多くない収入を手に帰宅し、妻と飼い犬に迎えられるのを喜びとしている。