シリーズ 組織開発を追いかける 第1回 「組織開発ワンデイ集中講義@ IN 東京」より① 組織開発には“風呂敷”と“血生臭さ”がつきもの?!
昨今、いくつかの理由から、日本企業において、「組織開発」に対する関心が高まっている。
しかし、いざ組織開発を実践しようとする時、推進者は、具体的には何をどのように変えるべく、
何を進めていくのか。
本シリーズは、4月29日に行われた「組織開発ワンデイ集中講義@ IN 東京」と、
とある講座での実践から、それらを明らかにしようとする試みである。
4月29日、ヤフー本社で行われた『組織開発ワンデイ集中講義@ IN東京』(ODネットワークジャパン・経営学習研究所主催、ヤフー・ダイヤモンド社協賛)には、ゴールデンウィークの初日にも関わらず300人が詰め掛けた。組織開発(OD)の理論や変遷を6階建ての建物に見立てて(図1)、1~3階に当たる部分を中原淳氏(東京大学)が、3.5階から6階の部分を中村和彦氏(南山大学)が解説。その後、ベーリンガーインゲルハイムとヤフーの実践者が、取り組みの概要や苦労を語った。
本号では、中原淳氏の講演をダイジェストで紹介し、組織開発の哲学的基盤と、「注目が集まる今、気をつけなければならないこと」について概観する。
【講演1】組織開発とは何か?理論的系譜と実践現場のリアルから考える
中原 淳氏
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
今年1 月(7日)に南山大学の講演会(OD ネットワークジャパン主催)で中村先生と一緒に組織開発のお話をしたところ、多くの反響と東京開催のご要望をいただき、このような運びとなりました。なぜ私がここでお話ができるかというと、組織開発と人材開発(とりわけ経験学習論)の思想・ルーツが同じだからですね。今日の参加者には、初心者も玄人の実務家の方もいらっしゃるとのことなので、3つにメニューを区切ります。最初に「初めての方向けに簡単理解」、次に「玄人さん向けに立体的理解」、そして最後は初心者の方向けに「事例」をもとに実践的な説明をしていきたいと思います。
定義も手法もピンとこない?
さて、まずは初めての方向けに、組織開発とは何かをお話しします。組織開発の学問的定義はいろいろありますが、非常に一文が長いものが多く、ピンとこない人が多いのではないでしょうか。定義には27 通りがあり、その中に「行動科学」や「継続的」など、60 個の変数が存在しているという指摘もあるほどです。
それじゃまずいと、Burke(2011)は組織開発の数多くの定義を概観し、
1.計画的実践であること
2.行動科学が適用されること
3.人間の成長や変化を信じる実践であること
4.長期のプロセス介入であること
という4 つの特徴を抽出しました。
長ったらしい定義よりマシですが、一般の方には、まだピンとこないと思います。組織開発が縁遠く感じる理由のひとつは、ここにあります。つまり、定義がピンとこないのです。
それならば、定義はひとまず置いておいて、人は、手法に走ります今度は手法を調べてみますと、「サーベイフィードバック」「T グループ」「ホールシステムズアプローチ……など舌を噛むようなカタカナばかり。しかも組織開発の手続きだけを覚えることになります。しかし手続きや手法をいくら学んでも、芯が分からない。これが組織開発のつまずきポイントです。
組織開発は「風呂敷」?!
こんな複雑な組織開発を学ぶには、大事なポイントがあります。それは、組織開発は、いろんなものを包み込む「風呂敷」だと認識することです。組織開発は、その発展の歴史から、「風呂敷」であることを宿命づけられているのです。輪郭があるようでない。買い物のビニール袋からネギがポンと出るように、たまに中身が飛び出しちゃう。いくら厳密に定義しようとしても、どこかがはみ出ちゃうんです。輪郭がバシッと決まらない。はじめから、そういうものなのです。
この捉えどころのないものを学ぶ気持ち悪さは、組織開発を学ぼうとしたら必ず出てくるものなので、潔くあきらめてください。「語り得ぬものには沈黙しなければならない」というのは哲学者ヴィトゲンシュタインの言葉です。私たちが、組織開発を理解するために、まずなすべきことは、語り得ぬものを頭だけで理解することを放棄することです。
ユルく、背景と3段階で感じる
実務の現場で考えた時、組織開発はさらに捉えどころがありません。では、実務家は何をすればいいのか。それは、「ゆるふわ定義」「背景」「3ステップ」の3つの角度から“感じる”のです。
まず、「ゆるふわ定義」として、僕が思う組織開発を、いろんな定義を脇に置いて、僕の言葉で一番ユルく定義すると、
「組織をwork させるための意図的働きかけ」
となります。work とは「うまく動かす」ということ。人を集めたけれども、てんでバラバラで、どうも成果が出ない。そんな状態から、組織として体をなす状態への意図的介入が「組織開発」です。
次に「背景」から感じます。組織開発の「背景」には、現代の組織でメンバーの多様性が増していること、成果を発揮するまで時間がかけられないこと、また仕事が細分化・専門化・個業化し、チームとしてまとまりづらいことなどが挙げられます。「多様性」「待てない」「ひとりぼっち」が組織開発を必要とする現代的背景です。このように組織開発が必要になるバックグラウンドを理解すると、その応用場面が分かるはずです。