人材教育最前線 プロフェッショナル編 グローバル展開を支える人材を ボトムアップと選抜の両面から育成
海外の売上比率が全体の70%以上を占める、スポーツ用品メーカーのア
シックス。2016年1月からは、グローバルでのさらなる躍進をめざし、中期
経営計画「ASICS Growth Plan(AGP)2020」に取り組んでいる。
財務目標は、2020年の連結売上高7500億円の達成(2016年12月期
実績は3991億円)。その実現のための7つのコア戦略の1つに、「個人と
チームの成長」を掲げている。経営計画実現のために、どのような人材・組
織開発を行っているのか、同社のグローバル人事を統括する馬渕裕次氏に聞いた。
評価と能力開発をセットに
──小誌2016 年12 月号の巻頭『私の人材教育論』で尾山基社長がお話しになった方向性を人事・人材開発としてどのように実現していくのか、お聞きします。馬渕さんは2013 年に入社後、尾山社長の下、どのような改革に取り組まれてきたのでしょうか。
馬渕
最初に海外販社の人事ガバナンス改革に取り組んだ後、2014 年にアシックス本体の人事制度改革を実施しました。それまでは職能資格制度が基本で、MBO(目標管理制度)と能力評価による人事評価が行われていました。しかし、そのやり方を見ると、上司と部下との対話が十分ではなく、上司による部下の評価基準が曖昧になっているような状況でした。
そこで、人事評価においては、上司と部下の対話を大事にしたいと考え、「MBO」「コンピテンシー」「能力開発プラン」の3つを組み合わせた新たな人事評価制度を導入しました。人事評価と能力開発プランを組み合わせることによって、本人と上司が評価だけでなく、その後の能力開発についても定期的に話し合えるようにしたのです。また、コンピテンシーの直近の評価を昇格基準としたことによって、理論的には毎年でも昇格することが可能になり、優秀な人材を抜擢しやすい仕組みになりました。
──育成の仕組みについては、どのような見直しを行ったのですか。
馬渕
さまざまな研修プログラムがありましたが、それぞれの目的や期待される成果がやや見えにくいと感じました。そこで、各研修の狙いや位置づけを明確にしたいと考えました。
そのきっかけとなったのが、人事制度改革で導入したコンピテンシーをベースとした昇格アセスメントです。百数十人を対象としたアセスメントの結果を、個々の能力開発のためのフィードバックに活用する一方で、統計データとして、当社の人材像を把握するうえでの参考にしたのです。その結果、「情報収集力」や「結果に対する執着心」、「やり切る力」が当社の人材の強みであることが分かりました。逆に、「戦略性」「計画性」「創造性」といった部分が足りないことが明らかになったので、研修などで強化していこうと考えました。
また、グローバル展開を強化するために、グローバル本社の役割が海外販社のコーディネートからガバナンスへと変わったため、リーダーシップの強化が大きな課題となっていました。
尾山も述べていたように、カリスマ経営者が長年率いてきた会社の特性上、これまでは上からの指示を完遂しようとする姿勢にバリューがありました。それ自体は悪いことではなく、弊社の強みとして表れています。ですから、リーダーシップの強化といっても、アシックスらしい文化はそのまま残しつつ、強化すべきところを強化していこうと考えました。