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ラーニングデザイン研究会レポート

新型コロナウィルス感染拡大により、世の中の仕組が大きく変わっていく中で環境変化に柔軟に対応していくためには、社員一人ひとりが、必要なスキルを短期間でインプットし、短期間でアウトプットを繰り返しながら、アウトカム(=成果)を出し続けることが重要です。そのために、これからのHRD部門には、社員の「学習能力」を高め、「学習効果」を最大化することが求められます。
この研究会では、学びの構造を知り、学習手法や学習環境を最適化するラーニングデザインについて、産官学で研究していきます。

2021年01月18日

人の学びの構造と学ぶ力を高める方法
~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~

2020年10月16日に開催された「JMAMラーニングデザイン研究会」。今回は、『人の学びの構造と学ぶ力を高める方法~人材育成における「習得型」、「探究型」教育とは~」と題して、桐蔭学園の森朋子氏にオンラインで講演いただいた。本稿では、第一部「新しい時代の学力とは」、第二部「学びをデザインする(PDCA)」の2回に分けて紹介する。

森 朋子(もり ともこ)氏 桐蔭横浜大学

専門は学習研究,学習理論。人がどのように学ぶのか、学びのメカニズムとプロセスを解明し、その知見を教育現場に活用する学習研究が専門。
ケルン大学哲学部Magister修了後,大阪大学言語文化研究科前期・後期課程修了(言語文化博士)。
関西大学教授を経て現職。文部科学省中央教育審議会臨時委員(大学分科会),同 学生調査の実施に関する有識者会議委員,同 教育再生加速プログラム委員,東京大学情報学環反転学習社会連携講座フェローなどを兼務。
著書として,『アクティブラーニング型授業としての反転授業【理論編】』(共編者,ナカニシヤ出版, 2017年)などがある。

【講義②:学びをデザインする(PDCA)】

講義の後半でお話する重要なテーマは「目標」です。ちなみに、皆さんの中で、明確な人材育成の「目標」があって、すべての研修がその「目標」と紐づいている企業に所属しているという方はいらっしゃいますか? もしそうなら、それはとても素晴らしいことです。ただ残念ながら、多くの企業の場合、何か新しい手法があれば、それに飛びついた“場当たり的”な研修を繰り返してしまいがちな現状があります。それでは、知識が紐づかない“悪循環”だけが生じてしまいます。
 そうならないために重要となるのが、プロセスとしての「学びをデザインする」こと、そして「学び全体のマネジメント」です。

「学び全体のマネジメント」とは?

前半でお話した「学力の3要素」をもとに、企業が受け入れる学生(「多様な新入社員」)を、三角形のレーダーチャートで表した場合、すべてをバランスよく満たす学生もいれば、「基礎学力の不足」など、偏った三角形になる学生もいます。
 そこから、研修など、企業独自のブラックボックスを通過させることで、その企業にとって望ましい「質が保証された社員」になるというのが一般的な設計です。
 質を担保するために必要なのは、このブラックボックスを「構造」と「プロセス」の掛け合わせにより、「深い学びを促す仕掛けの集合体」として組織化していくこと。そうすることで、効果的な人材育成の「カリキュラム」を作り出すことが可能となります。
 ブラックボックス全体をマネジメントする際に重要となるのがPDCAです。まずは、①会社全体の人材育成目標(P)を定める必要があります。①に対して、受講者たちをどのような方法(D)で導き、受講者が目標にたどり着いたかを評価(C)したうえで、次の一手としての改善(A)を打つことこそが学びのPDCAなのです。
 特に①会社全体の人材育成目標(P)は、何もないところから作り上げるものではありません。企業が持つ、これまでの「歴史」「社風」「地域の特性」「専門性」は“変わらない” 要素です。一方、「社会の変化」、「社員が必要とする学力」が“変わる” 要素です。2つの要素を現状把握(S)によって組み合わせた、「見えない学力」と「見えにくい学力」によって、企業の人材育成目標(P)が完成します。(図:「学び全体をマネジメントする」)
 時間の都合上、本講義では、目標(P)と方法(D)における考え方や手法、ポイントについてお話していきます。

【P-①】「3つのレベル」から成り立つ人材育成目標の構造

マクロ、ミドル、ミクロ。この3つのレベルの整合性をきちんととることが人材育成目標(P)においては重要となります。特に「学力の3要素」を考えた際、こうした理念が、各研修においてはマクロレベルだけではなく、ミドルレベルとも紐づいていなければなりません。(図:「P カリキュラムの構造化」)

まず、マクロレベルとは、「企業の人材育成目標」において軸となるものです。次に、ミドルレベルは「専門職人材育成目標」「新入社員人材育成目標」「リーダー人材育成目標」などを指します。ここでは、部局横断的に集まって、各目標が企業の人材育成目標(P)に紐づけられているか? そして、それぞれの人材育成目標(P)が、他のミドルレベルの目標と連動しているかを確認します。最後のミクロレベルが「研修の目標」です。
 PDCAにおける「カリキュラムの構造化」においても、マクロレベル、ミドルレベル、ミクロレベルの連動を採用しています。
 ミクロレベルのPDCAの集合体が、最終的にはマクロレベルのPDCAとなるのがもっとも理想的だといえるでしょう。

【P-②】カリキュラム・マネジメント

カリキュラム・マネジメントでは、集合体としてのPDCAの関係性をマトリクス上で作っていくことが重要です。(図:「カリキュラム・マネジメント」)

具体的には、①日々の研修、②各部局、③1つの会社、④グループ会社の4つに分けた際、入れ子式に、①の中央の薄い色から、④の外周の濃い色へとマネジメントの効果が拡がっていくようなイメージです。
 Pでは、「理念・達成目標の共有化」。Dでは、戦略を持って、「継続的なアクティブラーニング」が行われているか。Cは、「データを基盤とする学びの実体調査」。Aは、「データに基づく改善」と「組織的な共有」。これらを一つひとつ回していきます。
 効果的な学びをデザインするうえで、このようなグランドデザインは必要不可欠となります。

【P-③】学びの2つの方向性(「垂直的学習」と「水平的学習」)

学びの方向性には「垂直的学習」と「水平的学習」の2種類があります。
 「垂直的な学び」とは、できないことができるようになる学びのことです。
 具体的な要素としては①熟達化、②段階的発達、③何かが上手になったり、速くできるようになる、④コミュニティにおける安定した関係性、⑤行為の「アタリマエ」化、などが挙げられます。
 一方、垂直がたくさんある中を、横に渡り歩いていくのが「水平的的学習」です。 “横断的な出会い”がある学習ともいえるでしょう。
 具体的な要素としては①異化、②越境、③「アタリマエ」が「アタリマエ」でないという認識、④価値が変化、などが挙げられます。
 垂直的と水平的。これは、どちらが良いという話ではありません。むしろ、企業自身がどちらに適しているかを考えるべきでしょう。たとえば、専門性の高い企業であれば、垂直的が社風に合っている可能性があります。また、ベンチャー企業の場合は、水平的な方が新しい発想が増えるかもしれません。

【P-④】越境する学び

個⼈が、所属する“組織の境界”を越え、いろいろな世界を往還し、他の共同体に触れることで、これまで当たり前だと思っていた価値観の“ゆらぎ”が生じます。こうした「越境」は、所属する組織内での価値観を再構成する学びのプロセスとして、極めて有効だといえるでしょう。
 異業種交流や人材交流、また、企業と大学が連携して行うワークショップなど、越境のありかたもさまざまですが、 “行ったきり”ではなく、必ず企業に戻って、外部で得た価値観を社内で共有する「双方向性」が前提となります。個人の価値観を変えただけで終わらないように気をつけなければなりません。

【D】学びのプロセス(「習得型」と「探究型」)

ここからは、以上の要素を踏まえたうえで、研修の人材育成目標(P)が決まった後、実際にどのような方法(D)で行っていくかについて説明します。
 まずは、「学びのプロセス」について。ここでキーワードとなるのが、「既有知識」です。研修のプロセスにおいては、既有知識がどんどん変化していくことが良いとされています。
 通常、知識を定着させることに主眼が置かれた「習得型」による学びのプロセスでは、「既有知識」を持って、新しい知識を「習得」して、それを「活用」して、実際に「探究」が行われます。
 しかし、ときには「探究」から始まる場合もあり得るでしょう。特に新入社員に関しては、「探究型」の学びから始めることを私はお勧めしています。何故なら、最初から人に教えてもらえることが前提となってしまっては困るからです。「知識とは、自分で探すもの」だということを理解してもらうためにも、まずは「探究」するためのワークショップ型の研修から始めて、その後、「習得」に戻っていくプロセスが、問題解決や知識の活用をうながす観点からも有効だと考えています。

【D-森氏の研究結果】学習が促進する3つの方法

もう少しテクニカルな部分について、私の研究結果から、学習が促進する方法を3つご紹介します。

①:内化→外化→内化

インプットとアウトプットの往還をつくることが重要となります。学習が促進するところで、「わかったつもり」をどのように作るか(内化)。そこから人と共有すること(外化)で、わかったことへの“ゆらぎ”(躊躇、葛藤、疑問、失敗)が起こったうえで、もう一度、内化に戻ることで、「自分が考えていたことには別の可能性もある」といった「わかった」をつくるイメージとなります。最後に“Teaching”をするのがコツです。

②:個⼈→グループ→個⼈

個⼈を基盤にするグループワークとなります。まず、①「個⼈」の「わかったつもり」を寄せ集め、最適解に向けて「グループ」で葛藤し、②「個⼈」の「わかった」へ落とし込むことで、「個⼈とグループの往還」ができあがります。
 また、考えるときには、必ず「個人」で考えることが重要です。それをグループに持ち帰って、自分が考えたことを必ず「言語活動」で相手に伝える時間を作った後、可能であれば、統合的な案を作ります。
 そして最後は、必ず「個人」でテーマに取り組みます。「個⼈」の「わかったつもり」が基盤であるため、「個⼈」自身で「わかった」を評価することが重要となります。
 まとめると、「内化1」(個人、わかったつもり)→「外化」(グループ、躊躇、葛藤)→「内化1ʼ」(個人ʼ、わかった!)となります。
 前述のオンラインとリアルの話でいえば、「グループでシェア」や「グループでまとめる」といった「外化」の部分は、リアルが向いています。一方、個人で取り組む部分(内化)はオンラインがスタンダードになりつつあります。後者を「事前課題」とすることで、成果は大きく上がります。学びが深まる要素において、予習はひとつの鍵となっているからです。事前に時間をかけてじっくりと取り組むことで、リアルの部分がより活性化し、さらには「学びの3要素」の「見えにくい学力」や「見えない学力」の向上にもつながります。

③: 個⼈にフィット感がある学び(Adaptiveな学び)

私が講義を行う際、学生対して、「なぜアクティブラーニングが必要なのか。その理由を4つの観点で、それぞれ200⽂字程度で述べよ」という動画を作成し、事前に閲覧してもらっていますが、最初のメイン動画を閲覧した時点での学生の反応に基準を設けて、それぞれに合わせた対応をしています。
 ①「退屈・飽きる」人には「高度な内容」のリンク先(例:最先端の研究の説明動画、⾼年次での内容等)を用意することで、「授業では資質・能⼒に注⼒しよう」という状態になります。
 ②「⽤語が分からない」人に対しては「具体性が高い」内容のリンク先(例:各⽤語の説明、他説明動画や画像・イラスト提⽰等)を用意します。これにより、「全体がぼんやり分かる」状態となります。
 また、いずれにも該当しない「なんとなく答えられる」人もいます。
 こうしたプロセスを経て、ようやく実際の講義に入る。これが、私がデザインした学習の一例です。

企業の研修に関しても、多様な社員がいる中では、1つの観点からではなく、「もっとやりたい人」に対しては、ニーズに応えられるコンテンツを準備し、「少し厳しい人」に対しては、事前に学習支援を行う。こうした「準備段階」を経てから研修をスタートするような学習デザインにより、研修効果はさらに上がっていくでしょう。

【C】学習の評価

評価には2つの種類があります。「直接評価」は、人事が直接査定できる「何ができるのか」というものです。「間接評価」は学習者自身が「何ができると思っているのか」というもので、時には自己満足が含まれる場合もあります。
「直接評価」と「間接評価」を横軸として、「数値で表せる」ものと「数値で表せない」ものを縦軸とすることで、4象限による評価が浮かび上がってきます。

①「数値で表せる」直接評価:テスト(客観テスト、標準テスト)
 ②「数値で表せない」直接評価:レポート、受講者の振り返り、プレゼンテーション、ポートフォリオ評価
 ③「数値で表せる」間接評価:社員調査(退職時調査,⼊社時調査)、業務調査
 ④「数値で表せない」間接評価:レポート、受講者の振り返り、インタビュー調査(文字になっているもの)

ちなみに、数値でどうしても表しにくいものについては、『ルーブリック』というマトリクスを用いることで、講師が評価することも、受講者が振り返りを行うことも可能となります。

また、研修において、ルーブリックを用途に応じて構造化することによって、さまざまな場面で活用できます。

おわりに

最後に、「何故、私たちはPDCAを回すのか?」について触れておきます。それは、構成員全員が、Aとなる「学習者の学習に関する現状把握(エビデンスベース)」と「具体的な改善案の策定(カリキュラムレベル、個々の研修レベル)」にたどり着くためです。
 時間の関係で駆け足になりましたが、本日の講義については後日、改めて自分の言葉で説明しなおすなどして、学びを深めてみてください。
 講義の途中、頭が“モヤモヤ”した感覚を覚えた人もいたかもしれませんが、その感覚こそ、学びにおいては必要なものです。時間をかけ、繰り返しの学習を行うことにより、その“モヤモヤ”は解消されます。そして、すっきりした状態になることで、学びのモチベーションが自ずと高まっていく感覚を、是非とも実感していただければと思います。

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(09-10月号連載「議論白熱」拡大版)

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