菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
伝説のエンジニアによる必読の未来予測本
仕事柄、未来に関する記述がなされた文献にはよく目を通している。
顧客と共に、未来の絵姿をイメージしながら、中期経営計画策定、既存事業の再構築、新規事業検討支援を行うことが多い私にとって、国内外で刊行される示唆に富んだ未来予測本の内容を把握しておくことは責務であり、極めて重要なインプットとなる。
未来を洞察できる人材育成という観点でもそうだ。
そうした研修をライフワークとして行っている者として、優れた未来予測関連本を課題図書と指定して、事前にお読みいただく機会は非常に多い。
例えば、一例として以下のような書籍が挙げられる。
・成毛眞著『2040年の未来予測(日経ビジネス人文庫)』2025年4月
・マーティン・フォード著『AIと仕事の未来(ダイヤモンド社)』2025年4月
・ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー著『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』2020年12月
・友村晋著『2045不都合な未来予測48』2024年11月
・川口伸明著『2080年への未来地図』2024年4月
秒進秒歩で成長を遂げている「AI」は、これまで人類が未体験の経験を数多く与えてくれるだろう。
産業界のみならず、生活面においても10年後には、いや5年後には当たり前のように「AI」が溶け込んでいる日々が待っている。
その頃には還暦を超えて、70代に向かっている私のような人間も、若者の足を引っ張らないように今のうちから、最先端のAI関連研究をしておかないといけないと危機感を感じている。
さて、今回ご紹介する1冊は、本連載読者の皆様は当然のこと、大学生、高校生にもぜひ読んでいただきたい非常にユニークで、かつ読み応えのある未来予測本である。
そのタイトルは『2034未来予測―AI(きみ)のいる明日』。
著者は個人的にも尊敬してやまない中島聡氏である。
中島氏は、MicrosoftでWindows95などの設計を手掛け(凄い!)、現在も様々なソフトウェア開発を手掛ける。
事業家としても、投資家としても著名な方である。
有料メルマガ「週刊Life is beautiful」では、約2万人の会員数を有しており、かくいう私も毎回楽しみに拝読している1人である。
本書の構成
読者の方が、未来のテクノロジーの進化を理解しやすいよう、工夫がなされている。
構成としては、「小説」と「解説」の組み合わせが全5編展開されている。
なるほど、小説を先に読み、その後解説を読むと、難しさに翻弄されることなく、世界感をイメージできるし、理解の深化が違うのだと改めて感じる。
各章のタイトルは以下の通りである。
○Chapter1:AIによる「死生観」のグレート・リセット
小説「愛のカタチ」と7項目の解説で構成されている。
「お墓は故人AIのサーバーになる」なるほど、確かにその可能性は高いかもしれない。
個人的には、もっとも「自分の生き方」の将来を描くにあたり、考えさせられた章である。
○Chapter2:「24時間寄り添うパーソナルAI」によるアフタースマホの生活革命
小説「シースルー」と9項目の解説で構成されている。
次のデバイスに関する議論は尽きないのだが、本章ではアフタースマホの世界観が見事に示されている。
次世代に覇権を握るであろう企業の条件も書かれているので、ぜひ参考にしていただきたい。
教育の在り方の変化に関する論考も実に興味深い。
○Chapter3:高性能・人型ロボットの「低価格化&大量生産」による空前の産業革命
小説「フリー?」と12項目の解説で構成されている。
2026年は「フィジカルAI元年」と形容されているが、一家に一台、人型ロボットが普及した2034年はどのような絵姿になっているのか、思いを巡らせて欲しい。
○Chapter4:AIドローンによる「戦争」と「日常」の再設計
小説「僕たちの聖戦」と9項目の解説で構成されている。
今、世界で起こっている紛争の数々は本当に心苦しいのだが、ドローンの進化がもたらす様々な影響力は、社会そのものを大きく変容させていくのだと改めて教えてくれる章である。
○Chapter5:人間の仕事の8割が消える時代の「混乱」と「希望」
小説「ユートピア」と6項目の解説で構成されている。
人事部門の皆様には特にご注目いただきたい章である。
8割の人々が職を失う未来……あまり考えたくない未来かもしれないが、本章を読むと確実にそういう未来が近付いてきていることを意識せざるを得ない。
長期ビジョンを検討している方々は、本章の内容を冷静に受け止めながら、組織の在り方を考えていく必要がある。
中島聡氏による満を持しての「未来予測本」
知的刺激感満載の1冊
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- 未来洞察を生業とするものとして、中島氏が描く未来の絵姿をインプットする
- なぜこの5テーマなのかを自分なりに分析し、自分事として再認識する
- 顧客のビジネスがどう変化していくかについて、本書を参考に熟考する
- 「新しい生き方」について学ぶ、自分を取り巻く環境の変化を考え抜く
本書の発刊情報を入手した時から、心待ちにしていた1冊であったが、「小説」+「解説」の組み合わせは想像以上に「頭に響く」インパクトがあった。
AIが社会にもたらす変化は、インターネットやスマホを遥かに凌駕する――
社会と経済の大転換はこれからやってくる――
その通りなのだと思う。中島氏が未来を教えてくれている。
テクノロジーの進化は世の中を劇的に変えていく、しかもそれは確実にやってくる未来である。
AIによるこれから現実のものとなる様々な革命は、1996年のインターネット革命を社会人6年目で体験した私のような者から見ても、「レベルが違う」社会変化を巻き起こすことが確実であると予想する。
私が読者の皆様の組織の長だとしたら、本書を全社員に配布して、しっかりと読み込んでいただき、自社の未来に与える影響を議論してもらう。
もちろん、組織人である前に1人の人間として、自分の生き方を考えることも強く意識してもらうようにする。
「小説」に感情移入しながら、「解説」を冷静に読み解き、自分の未来に思いを馳せる……。
繰り返しとなるが、言うまでもなく、必読の1冊である。

