J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年08月号

コンフリクト・マネジメント調査結果より 女性登用から価値を生み出す ダイバーシティ・マネジメントとは

7月号にも掲載した「コンフリクト・マネジメント調査」では、職場における性別の多様性が社員のやる気や職場の文化に及ぼす影響についても調査を行った。
多様性の活用や女性活躍推進が叫ばれる中、日本企業が取り組むべき本質的な課題とはいかなるものなのであろうか。
さらに、その課題に対処するためには、どのようなダイバーシティ・マネジメントを職場で行うことが望ましいのだろうか。
本稿では、これらの問題について調査結果を基に検討する。


宍戸拓人(ししど たくと)氏
武蔵野大学 経済学部 経営学科 講師
武蔵野大学経済学部経営学科講師。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了[博士(商学)]後、一橋大学商学部特任講師、武蔵野大学政治経済学部経営学科講師を経て現職。専門は経営学、組織行動論。組織におけるコンフリクト研究をテーマに多数の国際学会発表を行うと同時に国内外の研究成果にも詳しい。
taku_shi@musashino-u.ac.jp

何が本質的な課題なのか

女性活躍推進法が4 月に施行されたことにより、職場における女性社員や女性管理職の比率が今後高まることが期待されている。男性とは異なる観点や価値観を持つ女性が働く職場では、男性社員だけの職場からは生まれてこなかったような新たなアイデアや発想が生まれやすくなる。そのため、女性社員の登用はパフォーマンスに好ましい影響を与えると一般的に考えられている。

しかし実は、性別の多様性は必ずしもパフォーマンスを改善させないことが、さまざまな実証研究により確認されてきた。例えば、JoshiとRohは2009年の研究で、男性社員がマジョリティの職場やチームでは、性別の多様性が高まるとパフォーマンスが悪化するという事実を明らかにした。よって、女性活躍推進法の後押しにより女性社員を登用し始める企業の中には、期待とは逆にパフォーマンスが低下する企業も現れると予想される。

すると「やはり女性社員の登用は好ましくないのではないか」という考えを持つ人が出て、女性活躍推進法自体が多様性促進に対するbackfi re(逆火)となる可能性すらある。しかしそれは、誰も望まないことだろう。

日本企業が今、本当に取り組まなくてはならない課題とは、女性社員の登用自体ではなく、登用をスタートと捉えたうえで、「どうすれば性別の多様性が持つネガティブな影響を抑え、ポジティブな影響を引き出すことができるのか」という課題を解決することなのである。

1 性別の多様性と職場の分断

具体的な議論に入る前に、皆さんの職場の状況を少し思い出していただきたい。もし、職場で働く社員全員の名前を書いた付箋を壁一面に貼り、どこかに線を引いてグループ分けするように求められたら、どのような基準で線を引くだろうか。

文系と理系や、日本人と外国人、男性と女性、出身大学の違い、勤続年数の違いなど、さまざまな基準で線が引かれる可能性がある。

近年、人材の多様性に関心を持つ研究者の間で、このような、職場やチームの“分断”の問題に多くの注目が集まっている。性別の多様性が高い職場と一言でいっても、男性社員と女性社員が一丸となって働いている職場もあれば、彼(女)等の間に深い溝が存在するような職場もある。

したがって、女性社員の登用を進めることで、数の上での多様性を達成したことに満足する企業は、このような分断の問題を見逃してしまう可能性が高いのである。

では、性別の違いによる職場の分断は、具体的にどのような問題を生じさせるのであろうか。本稿では、分断がもたらす影響を明らかにするために、日本企業で働く社員を対象とするサーベイ調査を行った。

■分断すればするほど協調的でなくなり、熱意も失われる

分析結果を表1に示す。男性社員と女性社員との間で職場が分断すればするほど、社員同士の信頼関係が失われ、人間関係上の対立(リレイションシップ・コンフリクト)をより頻繁に経験するようになり、同僚や上司に対する満足度が低下することが確認された。

また、分断した職場においては、相手の意見を押さえつけてでも自分の意見を押し通すべきと考えるような文化(強制的文化)や、意見をぶつけ合うこと自体を抑えるべきと考えるような文化(回避的文化)が発達しやすくなり、皆が納得するまで話し合うことで対立を解決することをよしとする文化(協調的文化)が失われてしまうことも明らかとなった※ 1。そしてさらに、社員の仕事に対する熱意や没頭(エンゲージメント)の程度も、分断によって低下してしまうことが確認された。

※1これらの文化は「コンフリクト・カルチャー」と呼ばれる。中でも「協調的文化」は社員の満足度ややる気に対して好ましい影響を持つが、「強制的文化」や「回避的文化」は好ましくない影響を持つことが分かっている(7月号53ページに詳細は掲載)。

■男性社員は特に意識を

このような分断の持つ好ましくない影響は、男性社員の行動や考えにおいて特に強く表れることも確認された。男女間で分断した職場では、女性社員よりも男性社員のほうが改善案を自主的に提案しなくなる。また、相手の意見を押さえつけてでも自己主張すべきとする強制的文化の存在や、対立をできる限り抑えるべきとする回避的文化の存在を、より強く感じるようになるのである(図1~図3)。

女性社員との間で深い溝があることを日々感じている男性社員たちは、「彼女たちにはどうせ何を言っても無駄だろう。対立が生じたらこちらの意見を無理やり言い聞かせるか、大ごとにならないうちにうやむやにすべきだ」という考えを共有するようになるのかもしれない。

女性社員の登用を進めることで、「何となく職場の雰囲気が悪い方向に変わった気がする」というような印象を持った男性社員が、それを新たに働き始めた女性社員のせいだと安易に結論づけてしまうことがあるようだ。しかし、本調査の分析結果が示唆するのは、むしろ男性社員の行動や考えが、知らず知らずのうちに変化してしまうという事実である。

男女間で分断している職場で働く男性社員は、自身の行動や考えが、問題のある方向へと変化していないかどうか、という点に注意を向ける必要がある。

■本来のメリットも失われる

さらに、男女間での分断は、それ自体が問題となるだけではなく、性別の多様性が本来持っていたメリットを失わせることも確認された(図4~図6)。

男女の間で溝がなく、全体でまとまっている職場では、性別の多様性が高まると強制的文化が緩和される。加えて、社員間の信頼関係が強くなり、同僚に対する満足度も改善する。

対して、男女間で分断しているような職場では、性別の多様性は強制的文化の緩和や信頼関係、満足度になんら貢献しなくなってしまう。したがって、男性社員と女性社員との間の溝を残したまま、さらなる女性社員の登用を進めたとしても、性別の多様性を活性化につなげることはできないのである。

以上のように、男性社員と女性社員の分断は、さまざまな問題を職場に生み出すことが確認された。

これまで男性社員が多かった職場で、新たに女性社員を登用した場合、性別だけではなく勤続年数の点でも、男性社員と女性社員は互いに異なることとなる。このように、社員の持つ複数の要素(ここでは性別と勤続年数)が同時に異なる場合、両者の間で特に激しい分断が生じてしまうという事実も、近年の多様性研究においてしばしば確認されてきた。このことからも、女性活躍推進法の下で女性社員の登用を進め始めた企業は、特にこの“分断”の問題に気をつける必要があるといえる。

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