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OPINION1 「初期キャリアの成功体験」「残業常態化の解消」がカギ 「意欲」と「両立」の支援が 働きやすさを生む
女性が働きやすい環境を整えるため、大手企業をはじめ多くの企業は、法定を上回る手厚い支援制度の導入を進めている。
だが、中央大学大学院教授の佐藤博樹氏によれば、制度の過度な利用が、女性のキャリア選択における“ 幅”を狭めており、メスを入れるべきは、「残業が当たり前」の働き方にあるという。その理由とは。
働く女性を支える2つの切り口
女性が社会で生き生きと働き、力を発揮するにはどうすれば良いのか―。いわゆる「女性活躍」についての議論が盛んになって久しい。
女性活躍の決め手となる切り口には、「就業継続」と「能力開発機会」の2つがある。
1つめの「就業継続」については、多くの企業が、女性が出産後も働き続けることができるように、制度の拡充に力を入れてきた。例えば、育児休業や短時間勤務(時短勤務)制度の利用可能期間を法律で定めるよりも長く設けることなどだ。多くの女性は、制度を利用して仕事に復帰できるようになり、出産を理由に会社を辞めるケースが減った。
ところが、たとえ就業を継続できても、「能力開発機会」を得られるかというと、必ずしもそうではない。
仮に、ある会社では新卒社員が課長になるまでに、最短でも15年ほどかかるとしよう。ここでは時間そのものが重視されるのではない。15年という時間をかけて徐々に複雑で難度の高い業務実績を積み、後輩の指導経験を持つような人材が課長となるわけだ。
だが、女性はこの連続性のあるキャリアを休みなく積み重ねることが難しい。例えば出産・育児休業の利用によりブランクが生じるし、時短勤務となれば、勤務時間を削った分だけ必要な経験の蓄積が遅れる。
また、「マミートラック※」に代表されるように、出産・育児を経て職場に復帰した女性は、時間の制約を理由に主幹業務からサポート業務に回されるケースが散見される。
※マミートラック出産後の女性社員の配属される職域が限定されたり、昇進・昇格にあまり縁のないキャリアコースに固定されたりすること。
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プロフィール
佐藤博樹(さとう ひろき)氏
中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授
1953 年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学、雇用職業総合研究所(現労働政策研究・研修機構)、法政大学教授、東京大学教授を経て現職。専門は人事管理論。ダイバーシティ・マネジメントやワーク・ライフ・バランス研究の第一人者であり、内閣府男女共同参画会議議員をはじめ、ダイバーシティ推進に向けた官公庁の多数のプロジェクトに参画。代表的な著書は『人材活用進化論』(日本経済新聞出版社)、『職場のワーク・ライフ・バランス』(共著・日本経済新聞出版社)、『ワーク・ライフ・バランス支援の課題』(共編著、東京大学出版会)など。
[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部