J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2016年08月号

OPINION1 「初期キャリアの成功体験」「残業常態化の解消」がカギ 「意欲」と「両立」の支援が 働きやすさを生む

女性が働きやすい環境を整えるため、大手企業をはじめ多くの企業は、法定を上回る手厚い支援制度の導入を進めている。
だが、中央大学大学院教授の佐藤博樹氏によれば、制度の過度な利用が、女性のキャリア選択における“ 幅”を狭めており、メスを入れるべきは、「残業が当たり前」の働き方にあるという。その理由とは。


佐藤博樹(さとう ひろき)氏
中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授

1953 年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学、雇用職業総合研究所(現労働政策研究・研修機構)、法政大学教授、東京大学教授を経て現職。専門は人事管理論。ダイバーシティ・マネジメントやワーク・ライフ・バランス研究の第一人者であり、内閣府男女共同参画会議議員をはじめ、ダイバーシティ推進に向けた官公庁の多数のプロジェクトに参画。代表的な著書は『人材活用進化論』(日本経済新聞出版社)、『職場のワーク・ライフ・バランス』(共著・日本経済新聞出版社)、『ワーク・ライフ・バランス支援の課題』(共編著、東京大学出版会)など。


[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

働く女性を支える2つの切り口

女性が社会で生き生きと働き、力を発揮するにはどうすれば良いのか―。いわゆる「女性活躍」についての議論が盛んになって久しい。

女性活躍の決め手となる切り口には、「就業継続」と「能力開発機会」の2つがある。

1つめの「就業継続」については、多くの企業が、女性が出産後も働き続けることができるように、制度の拡充に力を入れてきた。例えば、育児休業や短時間勤務(時短勤務)制度の利用可能期間を法律で定めるよりも長く設けることなどだ。多くの女性は、制度を利用して仕事に復帰できるようになり、出産を理由に会社を辞めるケースが減った。

ところが、たとえ就業を継続できても、「能力開発機会」を得られるかというと、必ずしもそうではない。

仮に、ある会社では新卒社員が課長になるまでに、最短でも15年ほどかかるとしよう。ここでは時間そのものが重視されるのではない。15年という時間をかけて徐々に複雑で難度の高い業務実績を積み、後輩の指導経験を持つような人材が課長となるわけだ。

だが、女性はこの連続性のあるキャリアを休みなく積み重ねることが難しい。例えば出産・育児休業の利用によりブランクが生じるし、時短勤務となれば、勤務時間を削った分だけ必要な経験の蓄積が遅れる。

また、「マミートラック※」に代表されるように、出産・育児を経て職場に復帰した女性は、時間の制約を理由に主幹業務からサポート業務に回されるケースが散見される。

※マミートラック出産後の女性社員の配属される職域が限定されたり、昇進・昇格にあまり縁のないキャリアコースに固定されたりすること。

女性活躍を妨げる制度の手厚さ

「それならば、早々にフルタイム勤務に復帰し、ロスを抑えれば良い」と思う人もいるかもしれない。そこで、あなたの職場を思い浮かべてほしい。1カ月当たりの残業時間はどのくらいだろう。おそらく、多くの企業では“フルタイム”という言葉には“残業OK”という意味が含まれているのではないだろうか。

つまり、時短勤務で1日6時間働いていた人がフルタイム勤務に戻るとなると、それは“1日8時間”ではなく、9時間だったり10時間だったり、場合によってはそれ以上働くことを余儀なくされる。フルタイムへの復帰とは、いかにハードルが高いことかをお分かりいただけるだろう。

早々にフルタイム勤務に復帰した先輩社員が活躍できていたなら良いだろう。だが、家庭との両立が難しく、残念ながら仕事をあきらめてしまう先輩たちを見ていては、いくらやる気のある子育て中の社員でも復帰を躊躇してしまう。結局、彼女たちは「それほど強いやりがいを感じる仕事でなくてもいいから」と、制度を利用してほどほどに働き続ける道を選ぶようになるのだ。

それでは、上司も彼女たちの扱いに困ってしまう。結婚や出産といったライフイベント期に差しかかる前の女性に対しても、「せっかく育てても、結婚したら戦力にならないのではないか」と考え、大きな成長につながる仕事を任せなくなる。

これでは、「能力開発機会」の提供には程遠く、男性社員との間にキャリア格差が発生してしまう。女性活躍のために設けたはずの「就労支援」が、女性活躍を妨げるという現象が起こっているのである。日本企業で女性活躍が進まない理由の1つは、女性が制度を利用すればするほど活躍の機会が奪われるという、この矛盾した仕組みにある。

両立支援が生む弊害

このような就労支援施策は、皮肉なことに男女の性別役割分業を助長させているともいえる。というのも、妻が時短勤務をしているからこそ、夫は家事や育児を妻に任せきりにし、自分は残業を前提にフルタイムで働くからだ。残業のため子どもを迎えに行けない夫の傍ら、妻は仕事を早々に切り上げて、慌てて保育園に向かうというのも、理不尽な話である。

また、育児と両立して時短勤務をする社員が複雑で困難な仕事ができないとなれば、他のフルタイム社員がその肩代わりをせざるを得ない。労働時間や能力開発の機会が一部の社員に偏ると同時に、時短勤務で働く社員に対して、フルタイム社員から不満が生まれ、職場の雰囲気が悪化するというケースも起こっている(図1)。

女性は働き方を選ぶ余地がない

制度を利用する本人が、そのことによるキャリアへの影響をあまり意識せず、期限ギリギリまで、短時間勤務を利用する点にも問題がある。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:1,978文字

/

全文:3,956文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!