J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年03月号

OPINION 1 カギは「思い込み」の解消と、2つの施策 優秀な女性のやる気を維持し ロールモデルを増やしていくには

女性たちの中からリーダーを育てていくには、多くの場合、問題が立ちふさがる。特にここで取り上げるのは、ライフイベントに関係した休職や時短時期をどう乗り越えるのかということと、謙遜したり、躊躇したりする女性たちの意識変革である。
そこで、働く女性の能力発揮に詳しい牛尾教授に、先進事例の共通点を含めた、女性リーダーを育む施策の秘訣を聞いた。

牛尾奈緒美(うしお なおみ)氏
慶應義塾大学卒業後、フジテレビジョン入社。アナウンサーとしてニュースや情報番組のキャスターを務める。
結婚退社後、専業主婦となるが、後に慶應義塾大学大学院に進学。1998年に明治大学専任講師に採用される。2009年より現職。内閣府「男女共同参画推進連携会議」有識者議員の他、JXホールディングス監査役、セブン銀行監査役なども兼任。近著に『女性リーダーを組織で育てるしくみ』(共著、中央経済社)がある。

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=牛尾奈緒美氏提供

マクロとミクロな育成理由

「女性リーダーの登用・育成」が、ここ数年、特に盛んに言われるようになったのは、国の政策によるところが大きい。その狙いは、「M字カーブ」と呼ばれる、30 代~ 40 代半ばを中心に約345万人いるとされる潜在労働力の雇用を含めた、女性の活躍による経済効果だ。

例えば、日本国内の女性就業率が男性並みに高まった場合の潜在的GDP増加率は13%近く(ゴールドマン・サックス調査2014 年5月より)に上るなど、女性の活躍は日本経済に対しプラスに作用するという試算が、国内外を問わず多く発表されている。

こうしたマクロ的データからも、国を挙げて女性の活躍を進める必要があることはよくおわかりだと思う。

しかし、それ以上に、企業経営や実際に働く私たちの、いわばミクロ的なレベルからも、女性が活躍できる環境づくりには、さまざまなメリットがある。

企業から見たメリットとは、女性に限らず多様な人材を活用する「ダイバーシティマネジメント」による効果だ。

さまざまな立場や価値観を持つ人々が集まり、それぞれの能力を発揮できる組織は、社内の活性化やイノベーションをもたらす可能性を秘めており、競争力の強化につながる。さらに、経営層に占める女性役員の割合が投資家からの評価に影響するなど、資金調達や信頼性の面でも、多様な人材が活躍できる組織づくりを無視することはできない。実際、仕事で海外に出向いた際、自社のダイバーシティ経営が進んでいないことに対し、恥ずかしい思いをされた経営者もいると聞く。

そして私が今、特に伝えたい、企業が注目すべき理由は、「働く人々の価値観の多様化」への配慮だ。

かつてのように、「男性は働き、女性は家庭を守る」といった、性別で切り分けられた画一的な「幸せのかたち」は、もはや実情に当てはまらない。仕事に対する考え方も、性別を問わず、一人ひとり違うものだ。例えば同じ仕事でも、必要に迫られて仕方なくこなすのと、家庭との両立は大変だが意欲的に取り組むのとでは、生産性は違っているはずだ。

企業には、こうした社員一人ひとりの「幸せのかたち」と向き合いつつ、仕事への意欲や能力を上手に引き出して経営につなげることが求められているのである。

立ちはだかる「思い込み」

女性リーダーの育成が必要だと、企業側が感じている一方、実際の登用はなかなか進んでいないようだ。その原因には、2つの「思い込み」があると考える(図1)。

(1)「女性はやる気がない・両立は無理」という企業側の思い込み

1つは、企業や男性側の、女性に対する間違った思い込みだ。背景には、戦後から続く日本型雇用や仕事の評価がある。

多くの日本企業ではまだ、男性を中心とした終身雇用・年功序列のもと、長時間労働を厭わない滅私奉公的な働き方が一般的だ。特に、中核的な役割を担うと、その傾向が強くなる。この働き方は、男女の社会的役割が明らかだった高度経済成長時代には、効率的なものであった。

しかし、家庭との両立を図ろうとする女性にこの働き方を当てはめては、当然無理が生じる。これではいくら十分な能力と意欲があっても、責任ある立場を担うことに対し、二の足を踏んでしまっても仕方がない。

すると、企業側や男性たちも、「女性は家庭を持つと戦力にならない」「女性は男性に比べ意欲に欠ける」などと判断してしまう。

(2)「管理職=大変」という女性たち自身の思い込み

そしてもう1つの「思い込み」とは、女性たち自身が、「リーダー職なんて大変」と必要以上に思ってしまうこと。この原因にはロールモデルの不足が挙げられる。

役員、課長相当職以上(管理的職業従事者)における女性の割合は11.2%(総務省 「労働力調査〈基本集計〉」平成25 年)にとどまっている。つまり役員を含む管理職10人のうち、女性はたった1人という計算になる。そして管理職に就く女性といえば、独身や子どものいない既婚者、または子どもがいても家族が協力的で、恵まれた環境にあるという場合が多い。すると、他の多くの女性たちは「家庭との両立は難しい」と感じ、「今のキャリアでもう十分」「女性だから仕方ない」と、本来の力を発揮する前にブレーキをかけてしまうのである。

「思い込み」の解消には

上記のような企業側と女性たちの「思い込み」は、結果として女性リーダーが育ちにくい職場環境の原因となっている。

例えば、社員のキャリア教育を男性中心に進める、出産・育児休暇から復帰した女性社員は補助的業務に自動的に配置する、といったことはないだろうか。こうした動きは、女性の活躍の機会を奪うのと同時に、意欲を低下させてしまう。

「出産後は家庭をメインにし、会社ではほどほどに稼げればいい」と考える女性がいるのは間違いない。中には、休暇と復帰を繰り返しながら補助的業務を続け、「お荷物社員」と揶揄されるような人もいる。こうした社員が増えることは経営の圧迫につながるだけでなく、意欲の高い女性の活躍の足かせにもなりうる。

そうではなく、「復帰後も今までのキャリアを活かし、より自分の能力を伸ばしたい」と思える空気が生まれるよう、企業は女性が活躍できる環境を整えることが大切だ。

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