社員の“やりたい”を実現する環境づくりを目指す 海外で感じた限界を越えるため理論を学び人事の実践へ 鴻巣忠司氏 竹中工務店 人事室 人材開発部長
1610年(慶長15年)創業のスーパーゼネコンである竹中工務店。
ジョブ型人事制度への転換を進める同社において、制度の浸透・拡大を進めるのが、人材開発部長を務める鴻巣忠司氏である。
「アジアの発展に貢献したい」という動機で入社した鴻巣氏が、なぜ人事畑を歩むことになったのか。
キャリアの変遷をたどる。
[取材・文]=本間 幹 [写真]=中山博敬
創業400年の歴史に残る一大人事制度改革を推進
竹中工務店では、2022年に47年ぶりとなる人事制度改革を実施。それまでの職能資格制度から、いわゆるジョブ型の人事制度を導入した。この人事制度改革を主導し、現在も人材開発部長として制度の浸透・拡大に取り組むのが、今回の主役である鴻巣忠司氏だ。
創業以来の「棟梁精神」が受け継がれている同社の人材育成には「よい仕事がよい人を育て、よい人がよい仕事を生む」という考え方が根付く。「やりたい人が、やりたいことを正しい手段で実現できる環境をつくることが人事部門の役目」だと真っすぐな瞳で語る鴻巣氏自身もまた、そうした環境のなかで成長してきた。
人々の活気のなかで育まれた海外への熱い思い
話は1990年代の初めにさかのぼる。大学生であった鴻巣氏は、旅行者として東南アジアを訪れ、開発途上国特有の雰囲気にすっかり魅せられてしまったという。
「そこで暮らす人々が醸し出す活気と街中に漂う熱気。それまで経験したことのない独特の空気感にあてられたのでしょう。いつの間にか、『これらの国々の発展に貢献したい』という思いを抱くようになったのです」
竹中工務店の存在を意識するようになったのは、旅の途中で立ち寄ったシンガポールでの出来事がきっかけだった。チャンギ空港のターミナル建設現場で「TAKENAKA」というロゴが入ったシャツを着た現地の作業員の姿を見かけたのである。
大学卒業後、胸に抱いた夢を実現するべく、同社に入社した鴻巣氏が、1年間に及ぶ研修後に配属されたのは東京本店作業所だった。ここで東京・臨海副都心の開発プロジェクトの施工事務を担当する。