小さくていいから、火種を起こしていく 対話とプロセスを大切に 手触り感のある人事制度へ 流郷紀子氏 カルビー 人事・総務本部 人財戦略部 部長

2025年3月期第3四半期は、四半期、累計とも過去最高の売上高・営業利益を更新したカルビー。好調な業績を支える経営基盤の1つが、「多様性を尊重した『全員活躍』の推進」を掲げて進められている人事制度だ。現在はその見直しに着手し、従業員一人ひとりが新しいことや難しいことに挑戦することを高く評価する制度へと進化させようとしている。このプロジェクトを率いるのが人財戦略部部長の流郷紀子氏だ。複数の会社で人事制度改革に携わってきたプロフェッショナルの足跡をたどる。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=山下裕之


“手に職”思考で開発職からキャリアをスタート
「自分は一生、白衣を着て過ごすものだと決めてかかっていました。まさか人事の仕事をするなんて、入社当時はまったく考えもしませんでした」
カルビー人財戦略部部長の流郷紀子氏は、そう振り返る。
もともと人事と縁遠い理系の開発者だった。大学で有機化学の研究をした後、臨床検査受託会社に開発職として入社。東京都八王子市にあるラボで、自己免疫疾患検査薬の開発・製造・品質管理を担当し、動物の臓器から抗体を取り出すなどの作業に日々没頭していた。
転機が訪れたのは6年目。本社に呼ばれて「人事に異動するか、今の仕事を続けるか選べ」と言われたのだという。
「母に『手に職をつけなさい』と言われて育ったせいか、もともと専門志向や安定志向が強かったんです。その意味で開発職はぴったりでしたが、ラボと会社の寮を往復する毎日に閉塞感を感じていたことも事実です。実は人事部門の先輩社員に誘われ、駅伝大会に出場する有志チームで一緒に走ったこともあり、その縁にも背中を押されて異動を決断しました。後から聞くと、人事は入社当初から私に目をつけていて、駅伝チームに誘ったのもその布石だったとか。まんまと乗せられましたね(笑)」
変化を求めて人事に異動したものの、最初の担当は給与計算だった。流郷氏は「正直に言うと想像と違った」と告白するが、もともと専門家タイプだったこともあり、「どうせやるなら究めよう」と社会保険労務士の資格を取得。
労務のスペシャリストとしての道を歩み始めていた流郷氏に、再び転機が訪れる。3年後に人事に戻る約束で経営企画への異動が決まり、そのタイミングで社会人大学院に通い始めたのだ。