テクノロジー|生成AI時代の人材開発 生成AI時代に活躍する社員を育てるために必要なスキルと人材開発 三谷 慶一郎氏 NTTデータ経営研究所 主席研究員 エグゼクティブ・コンサルタント/武蔵野大学 国際総合研究所 客員教授
OpenAIが「ChatGPT」を公開したのは2022年11月。そこから2年が経過して、生成AIが身近な存在になりつつある。
個人だけでなく企業においても、人々の働き方や求められるスキルに影響を与える可能性が高い。
テクノロジーの進展を、HRはどのように捉え、自社の人材開発に取り入れればいいのか。
経済産業省「デジタル時代の人材政策に関する検討会」座長を務めるNTTデータ経営研究所の三谷慶一郎氏に、生成AI時代の人材開発について話を聞いた。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=NTTデータ経営研究所提供
なぜ日本のAI活用は進まないのか
自然言語で様々なタスクを処理する「ChatGPT」の登場は、新しい時代の幕開けを予感させるものだった。ただ、単に物珍しいだけで社会実装がうまくいかなかったテクノロジーは山ほどある。生成AIは社会をどのように変える可能性を秘めているのか。NTTデータ経営研究所の三谷慶一郎氏は次のように解説する。
「様々な調査レポートが出ていますが、McKinsey&Company『生成AIがもたらす潜在的な経済効果』によると、分析対象とした63件の生成AIユースケース全体で、年間2.6~4.4兆ドル相当もの価値をもたらす可能性が指摘されています。イギリスのGDPが約3兆ドルですから、インパクトの大きさがよくわかります」
影響度が大きいだけではない。ITも含めてこれまでのテクノロジーは工場のラインや定型的な事務処理などの単純労働の領域で生産性向上に寄与してきた。しかし、生成AIはどうも様子が違う。
「これまではコミュニケーションを必要とする対人の領域や、デザインやエンタメなどクリエイティビティが求められる領域など、知的労働といわれる仕事ほど機械に代替されにくく、人間側に残るとされてきました。しかし、生成AIは自然言語で会話ができて、マルチモーダルで映像や音楽も生成してしまう。生成AIの普及で大きな影響を受けるのは、むしろ知的労働に従事する人たちです。日本はホワイトカラーの成熟度が高い国の1つであり、生成AIが適用できる業務は多い。当然、影響は大きいと考えられます」
ただ、実際に日本企業で活用が進んでいるかどうかは別の話だ。Microsoft・LinkedIn「2024 WorkTrend Index Annual Report」によると、日本における知的労働者の生成AIの業務利用割合は32%。世界平均75%と比べて利用が進んでいないことがよくわかる(図1)。
なぜ日本企業は生成AI活用で立ち遅れているのか。三谷氏は理由として経営上位層の消極的な姿勢を挙げる。実は前出のMicrosoft・LinkedInによる調査でも、「競争力を保つにはAIが必要」と考えている経営者の割合は、世界平均79%に対して日本は67%で、日本の経営者はAI活用に及び腰になっていることが見て取れる。
「日本の経営層は、まず自分が生成AIを使っていません。また、生成AIはまだ嘘をつくことがあるなど、リスクが気になって活用に踏み切れないという声も聞きます。ただ、活用が後手に回っているのは生成AIに限った話ではないでしょう。90年代から近年まで、アメリカではIT投資額が約3倍になっているのに対して、日本はおおむね横ばいです。生成AIの活用が進まないのは、これまでの延長線上で起きている話だと思います」
経営層の消極的な姿勢を「時代に遅れている」と批判するのは簡単だが、なぜ消極的なのかはもっと深掘りする必要がある。