技術を極める教育を拡充し、顧客の課題に向き合い信頼される人材に 中村元彦氏 三井三池製作所 代表取締役社長
インフラ向け機械製作を行う三井三池製作所で、2020年に社長に就任した中村元彦氏。
「100種100様のモノづくり」を掲げオーダーメードにこだわる同社が、いま人材に求めることとは。
技術・技能伝承問題やリーダーの在り方についての想いも語っていただいた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=山下裕之
危機下の船出、熟考しつつ泰然と
―― 2020年6月に就任されました。報道では、「コロナ禍真っ只中で外出もままならなかったものの、会社と自分自身のことを熟考できた」と、当時を振り返っていらっしゃいます。
中村元彦氏(以下、敬称略)
いやいや、熟考というと格好いいですが、私自身ずっと営業で動き回ってきて、それがパタッと止まらざるを得なくなった。お客様のところへ行きたくても行けませんからね。結果的に、いったん立ち止まれたというか、会社と自分自身の来し方を振り返れたのはよかったと思います。
―― 大変なときにバトンを引き継いだな、という思いは……。
中村
正直、あまり感じていませんでしたね。というのも、事業自体は割と活発に動いていたからです。人の行き来は減ったものの、各部門とも仕事が途絶えたわけではなく、ありがたいことに、営業に回れなくても既存のお客様から新しい注文が入ってきていました。
―― 環境変化に強いのは貴社のビジネスの特性と関係していますか。
中村
基本的にB to B、それもインフラ関係のお客様が多いので、一般消費者の行動変化に左右されにくいのはあるでしょう。当社は官営三池炭鉱分局の付属工場にルーツを持つ産業機械メーカーです。1882年、福岡県大牟田の地に創業して以来、掘削機械から運搬機械、建設機械、それらに動力を伝える原動機まで、社会と暮らしの基盤を支える多様な機械類の開発・製造を手掛けてきました。お客様それぞれの要望にとことん合わせるオーダーメードに取り組み、頑丈で長寿命な製品づくりを特長としています。
100種100様のモノづくりに挑む
―― そうしたオーダーメードにこだわる姿勢を、「100種100様のモノづくり」というキャッチフレーズで再定義し、経営方針として社内外に改めて打ち出しています。狙いや背景を教えてください。
中村
当社が手掛ける品目は多岐にわたります。その一品一品について、それぞれのお客様の「ここをもっとこうしてほしい」という要望に逐一応えることは、生産性や収益の観点からすると決して“上手い”方法ではありません。既製品や汎用品を売った方が、会社としては数字を上げやすい、成長しやすいわけですから。しかし標準品だけで、本当にお客様の望みをカタチにすることができるのか。我々はどうしてもそこにこだわってしまうんですよ。まさに当社の“体質”であり、長い歴史のなかで培われた組織のDNAといっていいでしょう。
―― コロナ禍にあって注文が途切れなかったのも、既存のお客様にとことん寄り添ってきた結果では?
中村
就任を機に自社を顧みたとき、私もそう思い至りました。だから、規模の拡大を追うより、むしろ受注生産を意識的に極めることで、競合とのさらなる差別化を図りたい―― 。そんな思いを「100種100様のモノづくり」というフレーズに集約して発信しているのです。