J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

Learning Design 2020年11月刊

気づきのトピックス 講演録 ATD2020ヴァーチャルカンファレンスレポート デジタルコミュニケーションや オンライン研修に役立つTips

1943年に設立された米国タレント開発協会(ATD、旧ASTD)は、毎年国際大会を行っているが、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、急遽リアルカンファレンスを中止しヴァーチャルに変更。
2020年6月1日から5日にかけて開催し、その後3カ月間、アーカイブを公開した。
最終的に5人の基調講演を含む38のライブセッションと148のアーカイブ動画等で構成され、71カ国から4,500人が参加したという。
本稿では、ラーニングの転換に参考になる3つの講演のダイジェストを紹介する。

Art Kohn 氏
神経科学者。企業内教育や組織開発、eラーニング、パフォーマンス改善等で執筆やコンサルティングを行う。
デューク大学にて認知科学で博士号取得。
著書に『Communicating With Psychology』。

Cindy Huggett 氏
2000年代初頭からヴァーチャル・オンライントレーニングに携わり、豊富な実践とコンサルティング経験を持つ先駆者。
講演も多数。主な著書に『The Virtual Training Guidebook』がある。

Erica Dhawan 氏
人や組織のコラボレーション、コネクショナル・インテリジェンスの専門家であり、教育・コンサルティング会社「Cotential」創業者。
知見をまとめた『Get Big Things Done』は全米2015年のベストセラー。

取材・文=佐藤直也、寺門大貴、宮川敬子

注目の講演1Using Technology to ProduceLearning Transfer andSustainable Corporate ChangeArt Kohn 氏 神経科学者テクノロジーを活用した「学習転移」と「持続可能な企業変革」の実現

最も重要なのは「行動変容」

本日は、研修等で提供された学習内容の記憶の定着や、現場でその知識が使われるようにする方法、そして持続可能な変化をテクノロジーを活用して起こす方法論を提示します。

私はデューク大学で教鞭をとる神経科学者です。昨今かかわっている主な2つのプロジェクトを挙げると、1つはGoogle のトレーニングプログラム開発支援。もう1つはCenters for Disease Control and prevention(CDC:アメリカ疾病予防管理センター)とともに特にジンバブエでのHIVの感染拡大防止に取り組むものです。2つは全く異なるように見えますが、同じ科学と最新技術に基づいた方法を用いて、ジンバブエでは約1,000万人を、Google では約12億人を訓練。科学とテクノロジーの力を使って学習内容の定着を促し、人々の行動を変えているのです。

忘却のメカニズム

さて、突然ですが質問です。あなたはこうしたセミナーなどで聞いた内容を翌日までどのくらい覚えていられますか? 神経科学者や心理学者は長年にわたり記憶の定着について研究してきました。どんなに論理的でわかりやすいセミナーや研修であっても、1時間後にすでに50%、翌日には70%の内容が忘れられてしまうことがわかっています。大きな費用の損失ですから、忘却を可能な限り食い止めなくてはなりません。

そもそもなぜ急激に忘れるのか。それは、脳は記憶の混濁や介入を防ぐため、不要になった情報を積極的に抑制するメカニズムを進化させてきたからです。忘れた方が適応的なのですね。しかし逆にそのメカニズムがわかれば、忘れないようにする方法も構築することができます。

研修“後”の働きかけが鍵

ではどうやって脳は情報の要不要を判断しているのか。それは「Use it or Lose it」。思い出したり、実際に何か判断に使われるかどうかです。研修でいえば、「研修後に何をするかが、研修中に何をするかより重要」ということです。

いくら素晴らしい研修を行っても、終了後に何も働きかけなければ、受講者の脳は「これは必要な情報ではないのですね、では捨てましょう」と判断してしまいます。研修後は、「何が重要か」を脳に効果的に伝える時間ということです。数時間後と数日後に広範囲に伝えれば、脳はそれを有用な情報だと判断します。

具体的には、受講者に学習内容について定期的に考え、処理する機会、「ブースターイベント」を提供することで繰り返し忘却曲線をリセットし、その情報が保持されるようにします(図1)。

思い出してもらう方法

ブースターイベントはどんなものでもかまいません。学習内容について深く考え、注意深く情報を処理するものにしましょう。上司が受講者に「何を学んだ?」と質問するだけでもいいのですが、多忙なマネジャーに支援を得るのが難しいことも多いと思います。そこで、このプロセスを自動化できる様々なツールがあります。ある通信会社のリーダー研修で行った方法を紹介します。

その研修はセミナー映像を見てもらうものだったのですが、視聴後に「トレーニングクイズ」を受講者のスマホに送りました。受講者はリンクをクリックしてクイズを開き解答します。たとえば「コンセンサスリーダーシップの最初のステップは?」という問題。3択で、「信頼の構築」「コミュニケーションチャネルの開通」「権限の確立」というボタンが並んでいる画面が開くので、受講者が研修を思い出してボタンを押すという具合です。クイズは研修を受講するか、非常によく考えないと答えられない問題にしておきます。

また受講者にはその場で正解がわかるようにしておきます。不正解でも問題ありません。大事なことは、受講者の脳に、学習した内容が重要であることを伝え、削除されないようにすることです。

また、「優れたリーダーとはどんなリーダーですか?」などの、受講内容に関連するオープン質問を投げかけ、自分なりの答えを返信してもらい、それを公開して受講者同士コメントしたり評価をできるようにするといったことも有益です。このケースでは他の人の回答を閲覧したり評価をすることでポイント(クレジット)が貯まり、「リーダーボード」の順位が上がるといった仕掛けにしました。様々なやり取りで受講内容を思い出して深く考える機会を提供し、脳に情報が保持されるようにします。

しかも、重要なのはその機会を与えることであり、ブーストの方法やどのくらいの時間をかけるかは効果に関係ないことが学生を対象とした実験でわかりました。クイズなどで、5秒程度で、学習内容をトレースする機会を与えれば十分なのです。

ブーストに使えるツール

皆さんは社内で多くの研修を行っているでしょうが、全ての研修内容を、忘れないようにブーストしなくてはならないのでしょうか。忘れてもらいたくないようであれば、答えは「Yes」です。大変に思われるかもしれませんが、すぐにできる方法もあります。1つは既に述べた、上司やチーム同士で受講内容について質問する方法。2つめは、GoogleフォームとGoogleクラスルーム、そしてGmailを使う方法です。Gmailで受講内容を思い出させる質問をし、レコードシートに回答を貯め、全体のプロセスを追跡することができます。

他には「マインドマーカー」「ブースターラーン」「sergo」といったツールがあります。

学習者からの情報は教育効果の証明に

どうブーストをスケジュールするか。私は「2+2+2(トゥトゥトゥ)方法論」を開発しました。2日目から始めて、2週間後、2カ月後に思い出す機会を設けるというものです。

2日目は簡単に解答できるテストを送ります。2週間後には「ソーシャル投稿」を始めます。たとえば、ある企業で「顧客からのクレームを担当部署にエスカレーションするうえで最高のアプローチは?」と投げかけ、解答を書き込んでもらいました。

これらは学習内容の定着に十分な効果を発揮したのですが、それ以上の成果を得ました。全米から多くの受講者が考えを投稿し、本当によいアイデアが集まったのです。

2カ月後には、このような質問を送ることをお勧めします。「研修で教わった内容を、実際に現場で使用した例を教えてください」。すると、実際にこのような回答がありました。「数週間前、とても立腹した顧客が来店し、つい議論してしまいました。しかしセッションを思い出し議論を取り下げ担当部署にエスカレしたところ、彼女は帰る前に洗濯機を購入してくれました」

こうした回答はトレーニング部門が収益に貢献し、組織を成功に導くことができると示す証拠にもなりえます。それを示すことは、私たちの義務でもあるでしょう。

この方法論は学習内容の定着・転移のみならず、組織のベストプラクティスを生成したり、教育効果の立証に役立つといえるのです。





注目の講演2Secrets of Master Virtual Trainers:5Keys to Online Classroom SuccessCindy Huggett 氏コンサルタント,ヴァーチャルトレーニングの先駆者優れたヴァーチャル講師の秘密~オンライントレーニングの成功に 必要とされる5 つの鍵~

優れたヴァーチャルトレーナーの5つの秘密をお話しします。5つとは以下ですが、②が特に重要です(編集部註:ここでは①②④ に重点をおいて紹介する)。
① 事前準備の重要性
② 受講者の参加意欲を高める
③ マルチタスクを制す
④ スムーズな配信環境
⑤ テクノロジーに精通する

事前準備の重要性

オンライントレーナー・ファシリテーターに必要な準備とは何でしょうか。それは大きく2つのカテゴリーに分けられます。

1つは、標準的な、研修そのものの内容に関する準備。もう1つは、オンラインで実施するためのプラットフォームに関する準備です。利用可能なツールの選定、テストの実行、バックアップ計画などが挙げられます。

特にオンライン研修の配信環境としては、以下の点に配慮することで理想的な環境に近づけることができます。
・研修に関係ないものはすべて片付ける
・サブコンピュータやタブレットを用意し、受講者目線を確認する。1台はホスト、もう1台は受講者としてログインし、両方の見え方を確認しながら進行する
・回線だけでなく、あらゆることにバックアップを準備する
・進行にかかわる資料は紙で印刷しておく(画面上に資料を表示しながら確認することは非常に難しく、リスクも高いため)。

受講者の参加意識を高める4つのポイント

しかし、どれだけ入念な事前準備をしても、受講者の参加意欲を引き出せないことがあります。それはなぜでしょうか。

オンライン研修の受講者は、自分の職場や居場所を離れることなく研修に参加できます。これが最大のメリットであり、トレーナーにとっては最大の課題です。なぜなら、職場では受講中でも誰かに話しかけられたり、また他の仕事の誘惑もあったりと、気が散る要因が多いためです。そこで受講者が参加意識を高める方法について、4つご紹介します。

① 期待を設定(依頼)する

受講者には、事前にWebカメラやヘッドセットを使うこと、静かで、機密性が保たれる場所から参加すること等について依頼しておく必要があります。企画側がいくらインタラクティブな内容を想定していても、受講者側がそのように認識していないと効果は薄くなるためです。

② 早く開始する

研修には学習目標がありますから、早めに、しかもソフトに始めたいものです。ですから、開始前から受講者に、ゆるやかに何かアクションを起こしてもらう仕掛けを準備します。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:3,524文字

/

全文:7,048文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!