J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年09月刊

気づきのトピックス講演録 チームで俊敏に行動しながら 心理的安全性を高め、 ビジネスを進める組織開発

「激変する経営環境に対応するには、将来の人と組織の在り方を構想できる経営視点をもったHRリーダーが必要である」―こんなコンセプトで、2019年から20年にかけて、全5回の会合「HRリーダー・コロッセオ」が行われた。
講師には、経営者や人事畑を経験した役員など、錚々たる面々がそろい、経営と人事の関係や真髄を伝えた。そこで、講義のダイジェストを誌面で再現し、共有する。
今回は第3会合より、日本ロシュ、中外製薬(ロシュグループ)、ベーリンガーインゲルハイムジャパンで人材開発やタレントマネジメントの責任者を務めた大野宏氏の講義に、後日加筆もいただいた内容を紹介する。

第3 会合
担当講師
大野 宏(Oono Hiroshi)氏
株式会社Weness JapanCoaching & Consulting代表取締役

大学卒業後、日本ロシュに入社。医薬品営業支店長を経て、スイス本社にて人的資源管理、エグゼクティブリーダーシップ開発のデザイン導入などに携わる。
帰国後日本ロシュ人材開発室部長、中外製薬(ロシュグループ)で人事部・人財開発部長に就任。
その後ベーリンガーインゲルハイムジャパンに移り、HRタレントマネジメント部長として、成果を生み出す働きがいのあるチーム・職場づくりの実現に向けたエビデンスづくりに尽力。
2014年より現職。

第4次産業革命の現代に求められるキーワード

現在の外部環境はVUCA 時代※と称されています。テクノロジーの発展やデジタル化の進展によって引き起こされるデジタルトランスフォーメーションを背景に、今後30年で起きる変化は、産業革命以降の変化としては最大級のものになるといわれています。

IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット。「成長戦略の鍵は第4次産業革命技術の社会実装」といわれるように、従来の産業構造のなかで成長してきた企業においても、大きな事業変革が求められています。

第3次産業革命、つまりIT 化においては、効率化、生産性向上は進んだものの、あくまで従来の延長線上にありました。しかし第4次産業革命は、それらを根底から覆しうる。顧客の課題をとらえ直し、先端ITを活用して新たな価値・サービスを生み出すことが求められており、人材・組織マネジメントにおいても大きな変化が迫られています。そのような環境下で企業・組織・チーム、そしてリーダーとしてどのようにビジネスを実践していくかも、大きな課題です。

そこで昨今私が注目しているのが心理的安全性、Agility(俊敏さ)、そしてバイアス(心理的阻害要因)、ハビット(習慣)といった内容です。これらは毎年開かれる米国タレント開発協会(ATD)のインターナショナルカンファレンスでも注目されているキーワードですが、年々、「何のために、どんな意義に基づいて仕事を進めていくべきか」という問いかけが、ATD でも非常に大きくなっています。人は目的や意義を感じると力が出るもの。その前提があったうえで、正解のないなかの総力戦で、チームが行動を起こしていく際に重要なことは、①心理的安全性と②個々が俊敏(Agile)に行動を起こす、ということです。

そこで本日、HR リーダーたる皆さんには、その心理的安全性や、「チームとはどのようなものなのか」を体験していただきます。
※ VUCA:Volatility(変動性)/Uncertainty(不確実性)/Complexity(複雑性)/Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったもの。

アジャイル(俊敏)な行動を支えるものとは

個々が俊敏(Agile)に行動を起こしていくことについて、先にお話しましょう。

現在の厳しいビジネス環境下では、チームメンバー全員が俊敏に実践し、結果をチーム間で対話し、プロトタイプ(試作品)をつくり上げることが望まれます。その際に重要なのが個々にあるバイアス(プロセス指向心理学では「エッジ」)を取り扱うことの重要性です。

バイアス、エッジとは、何かを進めようと思う際の自分の内側の声です。たとえば、「面倒くさい」「失敗して恥をかきたくない」「時間がない」といったような、内側からささやく声です。発達心理学者のロバート・キーガンはこれを「Immunology tochange」、ある意味で自分を守る免疫とも呼んでいます。

これらの声をまずは個人として意識すること、そして、チーム間でどのような声があるのかを対話していくことがチャレンジになります。チームメンバーに自分の弱さを晒すことになります。

これからのリーダーに求められていることは、自分のエッジを意識すること。そしてチームメンバーに伝えていくこと。エッジが出てきたときには、その声に負けずに、前に進み、チャレンジしてみることが求められます。その際チームメンバーがサポートすることが重要であるともキーガンは伝えています。チームメンバーが挑戦したら他のメンバーがそれを全面的にサポートする――こんな関係性づくりが、これからは重要です。

見えないものへの働きかけ

同時に、総力戦の時代は、目的や意義をまず自分のなかで解き明かしながらアウトプットを求めていく時代だとも思います。

は、変化を起こす際の重要な4象限です。縦軸が集団と個人、横軸が内面(=見えないもの)と外面(=見えるもの)になっています。だいたい出てくるのは右下の第4象限です。部下に聞くと8割の人が、「うちの上司にはビジョンがない。何を考えているかわからない」と言います。逆に上司は「うちの部下は自主性がない。言われたことしかやらない」と言う。どこの会社もだいたい一緒です。こうしたとき、会社として重要になるのが「どの方向に行くべきか」というビジョン・戦略、目標・成果、意思決定です。

第2象限は、個人/外面です。成果を上げるためのスキル、知識、行動といったコンピテンシーです。これらを明らかにするために、トレーニングしたりキャリアプランを考えたりするのです。しかし、会社がやろうと言っても現場は動かない。なぜならば、これはアプリケーションだからです。新しいアプリを入れても、OSが変わらないと何にも動かないというご経験があると思います。これがまさに第1象限の個人/内面部分にあたります。ですから全社プロジェクトの場合はよく、「そう言わずにやってくださいよ」と個人技で1人ずつ切り崩しながら、個人の内面のアップデートを進めるわけです。

ところがマネジャーを口説いても、下にいる部下たちは動きません。それが集団/内面の第3象限です。部下たちは、「本部長がそうおっしゃっても、うちは無理ですね」と平気で言う。やはり組織の一体感や共通のビジョンを一人ひとりがもたないと、ことは進まないので、集団の内面のアップデートが必要になります。

ここが一番大事であり、同時に厄介なところです。なぜならば、すでに述べたバイアス・エッジは、全部見えないところの話だからです。上の人や誰かが「やります!」と表明した瞬間、他の人から「いや、無理」と反発が出る。この“免疫反応”を抑えるためには、先述のようにまずは個人の、自分のなかで見えないものをきちんと自覚化し視覚化することです。そのうえで組織開発の一環として、自分がわかっていることをみんなの前で話す。みんなもそれを受け取る。そうしてチームの一体感をみんなでつくる。それが今、人材開発・組織開発のテーマなのです。

「関係性の質」のバッドサイクル・グッドサイクル

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