J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

Learning Design 2020年09月刊

特集│OPINION 2 太田 肇氏 人事とマネジメントで目指す Afterコロナ時代の企業と個人の “真のエンゲージメント”

テレワークの長期化は、単に働く場所が変化するという話にとどまらない。
マネジャーの役割、評価の方法、さらには組織の在り方まで、その影響は多方面に波及する。
働き方の変化がとまることはない時代における、マネジメントと人事の役割とは。
同志社大学政策学部教授の太田肇氏に話を聞いた。

太田 肇(おおた はじめ)氏同志社大学 政策学部 教授
1954(昭和29)年兵庫県生まれ。同志社大学政策学部教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。経済学博士。自称「組織学者」。
主な研究分野は「個人を生かす組織・社会づくり」。
著書に『「超」働き方改革 -四次元の「分ける」戦略- 』(ちくま新書)、『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)など多数。

[取材・文]=田中健一朗

職場の“ブラックボックス化”に不安を覚えるマネジャーたち

先行きの見えないコロナ禍で、導入に拍車がかかるテレワーク。在宅勤務を余儀なくされ、対面で仕事をする機会が大きく減少した状況下での試行錯誤が行われるなか、企業のマネジャーは、ある重大な問題に直面している。職場の“ブラックボックス化”だ。

「部下の働く姿が見えなくなったことで、マネジャーたちは不安に陥り、『役割』よりも『行動』を管理しようとする傾向が強まっている」と語るのは、組織論や承認欲求研究の第一人者である、同志社大学政策学部教授の太田肇氏だ。

「マネジャーの行動と承認欲求の間には因果関係が存在します。テレワークの導入により、『部下に対して、以前よりも頻繁に報告を求めるようになった』といった事象が増えている背景には、『部下が目の前にいないので、評価がしづらい』ということが“表向きの理由”だと思われますが、実際のところ、多くの上司自身の承認欲求が満たされないことに対する“不安の裏返し”であると言えるでしょう。しかし、本来マネジャーが担うべき役割は仕事(役割)の管理であり、人(行動)の管理は必要な範囲内で行うべきなのです」(太田氏、以下同)

「役割」と「行動」の線引き。それをマネジャー自身が理解し、実践できているかがテレワークにおけるマネジメントでは重要なのだ。

また、働き方やマネジメントの在り方が変化しているいま、マネジャーやメンバーの承認欲求の満たし方にも新しい方法が必要になる。太田氏は、①「キャリアの承認」、②「日常の承認」、③「“横のつながり”による承認」、④「“ガス抜きの場”を設ける」、⑤「“晴れの舞台”を設ける」といった、5つのパターンを例示(図1)。特にマネジャーに関しては次のように語る。

「かつての『立身出世』に代表されるような地位や長期的な承認も、組織階層のフラット化がさらに進めば、満たされなくなるかもしれません。今後は、横軸にキャリアを積んでいく過程で実績を上げ、社会的な影響力をもつといった新たな価値基軸の獲得により、承認欲求は満たされると考えられます」

テレワークと「情意考課」の相性の悪さ

そもそも、承認欲求によってマネジャーが陥る“負のスパイラル”など、円滑なテレワークを阻害する要因の根本には、日本企業が重きを置く「情意考課」(勤務態度や姿勢による考課)に問題があると太田氏は指摘する。

「世界中を見渡しても、日本ほど情意考課に評価のウエートを置いている国は珍しいでしょう。『役割』や『成果』で評価される欧米とは逆を行っています。

ちなみに、テレワークと情意考課の相性は極めて悪い。そもそも、部下の働く姿が見えない環境下で、成果ではなく、『態度』や『意欲』、そして、前述の『行動』のような“プロセス重視”の曖昧な評価を行うことに、果たしてどのような意味があるのでしょうか。また、情意考課の名のもとに、常にマネジャーからの監視を受けながら仕事をするような就労環境自体、あまり健全とはいえません。テレワークがきっかけとなり、日本企業で情意考課を見直す機運が、今後さらに高まってくることでしょう」

日本と欧米では大きく異なる“プロセス”をとらえる視点

日本の場合、「たくさん残業をした」「休暇返上で作業した」といった“精神面のプロセス”を重視するのに対し、欧米は“成果につながるプロセス”、具体的には、「プロジェクトがどの段階まで進んでいるか」「取引や交渉がどこまでまとまりかけているか」を徹底して見ている。太田氏は、こうしたプロセスのとらえ方の違いを“仕事の川”に例える。

「『川下』とは、成果やその人に求められている役割など、最終的な“アウトプット”に近い部分を指します。欧米企業では川下を評価する傾向であるのに対し、日本企業では『川上』に上がる傾向があります。成果や役割が明確ではなく、アウトプットを捕捉することができないため、インプットである川上の部分に注目せざるを得ないからです。これでは前述の情意考課と何ら変わりはありません(図2)」

「役割」明確化と「成果」重視のマネジメントの必要性

評価における“曖昧さ”の他にも、仕事における「役割」が明確にされていないこと、そして「成果主義」に対する誤った認識にも問題があると太田氏は言及する。

「よく、『欧米の成果主義』とも言われますが、実際のところ、現地のマネジャー以外の非管理職については、“日本人が考える成果主義”は採用されていません。極論すれば、『自身の職務を果たしているか』の1点のみが評価されています。欧米の場合、『職務』と『役割』、そして『分担』が明確になっているからこそ可能となりますが、比較してみると、ここでも日本企業特有の職務や役割における曖昧さが際立ちます」

一方、成果を重視したマネジメントを新たに取り入れるため、日本企業でも、テレワークにおける人事評価に対応すべく、評価軸や評価の方法を模索し始めている。そこで太田氏が提唱するのが、マネジャーが評価結果に対する説明責任を果たすための有効な手法としての、役割を果たしているかどうかを3ランクで見る評価方法だ(図3)。

「情意考課や川上を見るような方法に頼らずとも、社員の果たすべき目標が明確ならば、評価すること自体はさほど難しくはありません。役割や目標の“困難度”や、達成する“目標の高さ”を公平に評価するために、仕事の『見える化』などの工夫を行うことが、この3ランクの評価方法を有効に機能させるための前提条件となります」

メンバーシップ型→ジョブ型は必ずしも既定路線ではない

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,378文字

/

全文:4,756文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!