J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年01月刊

連載 中原淳教授のGood Teamのつくり方 第10回 会社の危機から生まれた サイボウズ流チームワーク術

働き方改革の旗手として次々と先進的な制度を打ち出し、「働きがいのある会社」として知られるサイボウズ。
場所も時間も自由な働き方を選択する社員同士のチームワークを可能にしているのが、サイボウズ流のチームークメソッドです。
同社のチームワーク総研のなかむらアサミさんに話を聞きました。

中原 淳(Jun Nakahara)氏
立教大学 経営学部 教授

立教大学経営学部教授。立教大学経営学部ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。
東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授などを経て、2018年より現職。
著書に『職場学習論』、『経営学習論』(共に東京大学出版会)、『研修開発入門』(ダイヤモンド社)、『駆け出しマネジャーの成長論』(中央公論新社)など多数。
研究の詳細は、Blog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)。Twitter ID : nakaharajun

取材・文/井上 佐保子 写真/宇佐見 利明

会社の危機を救ったチームワーク

中原:

サイボウズの企業理念は「チームワークあふれる社会を創る」ですが、創業時からチームワークを重視していたのですか。

なかむら:

実はそうではありません。社内では2007年ごろからチームワークについて学び、実践し、組織改革を行ってきたのですが、これを経営理念として社外に公開したのは2015年。8年かけてようやく社内に定着したということで、公開に踏み切ったのです。

中原:

会社の大変革が行われたのですね。きっかけは何だったのですか。

なかむら:

2005年ごろ、サイボウズは危機的な状況にありました。次々と人が辞め、年間離職率が約28%。そのころ私は人事部にいたのですが、80人規模の会社なのに、ほぼ毎週どこかで送別会が開かれているような状態で……。採用もままならず大変でした。当時は現社長の青野に社長交代した直後でしたし、売り上げも横ばいで伸び悩み、度重なるM&Aの失敗で1年に二度も業績の下方修正をし、このまま離職が続けば事業の継続すら危ない状況でした。こうした危機感のなか、せめて今いる社員が辞めないようにしなければ、と始まったのが組織改革です。

中原:

大きな危機感があったわけですね。

なかむら:

当時は、ベンチャー会社だったので、深夜まで残業が当たり前という風潮でした。それを育児、介護休暇を最長6年にするなど、長く働いてもらえるよう、会社として大事にしたいものを一つひとつ具現化していきました。

そして、会社としてもっとも大事にしたいもの、理想、それが「チームワーク」でした。これは、そもそも自分たちの存在意義は何かと、問い直していった先に見つけた答えでした。ソフトウェアを提供する会社ではありますが、お客様から「サイボウズを使うようになり、仕事の効率が上がり、チームワークが良くなりました」と言われることがあり、「自分たちの提供価値はチームワークなのではないか」と気づきました。

その後は社内でチームワークについて文献を読んで考える勉強会を行ったり、自分たちで実践したりしながら、サイボウズ流のチームワーク論をつくり上げていきました。2017年にはチームワーク総研を立ち上げ、得られた知見を活かして社外向けに研修等を提供する事業を行っています。

サイボウズ流チームワーク論

中原:

サイボウズ流チームワーク論とは、どのようなものですか。

なかむら:

チームワークを機能させるためのポイント(プロセス)を①理想、②役割分担、③コミュニケーション、④情報共有、⑤モチベーションの5つにまとめています()。

まずは、チームが何を目指すのか、①理想や目標の共有です。次に②役割分担で、誰が何をやるのかを決め、その後は、③コミュニケーション④情報共有ができているか、⑤モチベーションを上げられているか。これらをチェックしていくことで、チームワーク向上につながります。

これは、『チームワークの心理学』(山口裕幸著)を参考に、サイボウズ流にまとめたものです。チームワークについて語る際は、どうしても歯が浮くような言葉を使いがちですが、そうならないよう、当時の社員たちと、現場でも使えるものとして落とし込んでいきました。

中原:

なるほど、わかりやすいです。このなかで一番大事なのは何だと思われますか。

なかむら:

我々はチームの定義を「理想、目標を共有している集団」としているので、①が一番大切だと考えます。かつ、その理想にメンバー全員が共感しているかどうかが重要です。

中原:

メンバーが共有する理想というのは、「成果」なのか「チームの状態」なのか、どちらのイメージですか。

なかむら:

これはどちらもありえますが、チームが何を大事にしたいかによって、比重が変わりますよね。チームによるアウトプットには「効果」「効率」「満足」「学習」の4つがあるとされますが、どれに重きを置くのかによって理想、目標も変わってきますし、チーム運営のやり方も変わってくるように思います。

「質問責任」と「説明責任」

中原:

私は大学で、学生たちがチームで課題解決をするプログラムを運営しています。そのなかでよく起きるのが、授業の1回目に目標を決めたものの、その後、一度も見直しをしないまま、チームの活動と目標がかけ離れていってしまうことです。

なかむら:

一度決めたことを変えない、という考え方は危険だと思っています。それはまさに石碑に刻んだ言葉のようになってしまいます。私たちは「石碑に刻むな」と言って、言葉を置き去りにしないように気をつけています。重要なのは、チーム内でみんなが共感しているかどうかということですから。みんなが「優勝は無理だ」と思っているならば、目標自体を変えるのは悪いことだとは思いません。

中原:

もう1つよくあるのが、6人のチームメンバー中、2人だけは「優勝する」という目標に共感しているけれど、4人は「今の状況では無理だろう」と思っている。けれどもそれを言い出せない、といった状況。密にコミュニケーションをとり、情報共有していればいいのだと思いますが、それができない。

なかむら:

弊社内ではあまりコミュニケーションのズレは起きません。働き方がそれぞれ違うので、不明なことは必ず言語化し、オンラインでもオフラインでもかなり頻度高くコミュニケーションをとっています。

中原:

学生たちもコミュニケーションツールはあるのですが、情報共有はできていない気がします。御社ではなぜズレが起きないのでしょうか。

なかむら:

サイボウズには、「もやもやしたことは必ず発言しなければならない」というルールがあり、これを「質問責任」と言っています。当然、「聞かれたことには必ず答えなければならない」という「説明責任」もあります。つまりサイボウズでは「わからない」ことは、「質問責任」を果たしていないということになる。このルールがあることが、いわゆる「心理的安全性」につながっているのか、新人ほど、ずけずけと何でも聞いてくるんです。

中原:

「質問責任」のおかげで、何でも言えるし、何でも聞けるから、コミュニケーションのズレが起きにくいというわけですね。

「役割分割」と「役割分担」

中原:

チーム内で役割分担をした瞬間にチーム視点がもてなくなり、与えられた役割しかやらなくなってしまう、ということがよくあります。もやもやしたりもせず、何の違和感もなく粛々と自分の仕事を全うするような状態だから、質問も出ない。こうしたことは起こりませんか。

なかむら:

あまりないですね。評価のしくみが個人評価に基づいていないというところが大きいかもしれません。チーム評価ですので、たとえ営業職であっても、個人が売り上げたからといって、その人の業績評価が上がるわけではないのです。チームの予算、目標をチームで達成する、という考え方なので、チーム視点は欠かせません。

とはいえ、役割分担をすると、ついそれだけをやる、となってしまうこともある。そんなときは「今やっていることは、理想、目標の実現にどうつながっているのか」と視点を1つ上げる機会をもつことが必要で、そんな場を用意するのはチームリーダー的存在の人の仕事なのかなと思います。

中原:

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