第10回 会社の危機から生まれた サイボウズ流チームワーク術 なかむらアサミ氏 サイボウズ|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
働き方改革の旗手として次々と先進的な制度を打ち出し、「働きがいのある会社」として知られるサイボウズ。
場所も時間も自由な働き方を選択する社員同士のチームワークを可能にしているのが、サイボウズ流のチームークメソッドです。
同社のチームワーク総研のなかむらアサミさんに話を聞きました。
会社の危機を救ったチームワーク
中原:
サイボウズの企業理念は「チームワークあふれる社会を創る」ですが、創業時からチームワークを重視していたのですか。
なかむら:
実はそうではありません。社内では2007年ごろからチームワークについて学び、実践し、組織改革を行ってきたのですが、これを経営理念として社外に公開したのは2015年。8年かけてようやく社内に定着したということで、公開に踏み切ったのです。
中原:
会社の大変革が行われたのですね。きっかけは何だったのですか。
なかむら:
2005年ごろ、サイボウズは危機的な状況にありました。次々と人が辞め、年間離職率が約28%。そのころ私は人事部にいたのですが、80人規模の会社なのに、ほぼ毎週どこかで送別会が開かれているような状態で……。採用もままならず大変でした。当時は現社長の青野に社長交代した直後でしたし、売り上げも横ばいで伸び悩み、度重なるM&Aの失敗で1年に二度も業績の下方修正をし、このまま離職が続けば事業の継続すら危ない状況でした。こうした危機感のなか、せめて今いる社員が辞めないようにしなければ、と始まったのが組織改革です。
中原:
大きな危機感があったわけですね。
なかむら:
当時は、ベンチャー会社だったので、深夜まで残業が当たり前という風潮でした。それを育児、介護休暇を最長6年にするなど、長く働いてもらえるよう、会社として大事にしたいものを一つひとつ具現化していきました。
そして、会社としてもっとも大事にしたいもの、理想、それが「チームワーク」でした。これは、そもそも自分たちの存在意義は何かと、問い直していった先に見つけた答えでした。ソフトウェアを提供する会社ではありますが、お客様から「サイボウズを使うようになり、仕事の効率が上がり、チームワークが良くなりました」と言われることがあり、「自分たちの提供価値はチームワークなのではないか」と気づきました。
その後は社内でチームワークについて文献を読んで考える勉強会を行ったり、自分たちで実践したりしながら、サイボウズ流のチームワーク論をつくり上げていきました。2017年にはチームワーク総研を立ち上げ、得られた知見を活かして社外向けに研修等を提供する事業を行っています。
サイボウズ流チームワーク論
中原:
サイボウズ流チームワーク論とは、どのようなものですか。
なかむら:
チームワークを機能させるためのポイント(プロセス)を①理想、②役割分担、③コミュニケーション、④情報共有、⑤モチベーションの5つにまとめています(図)。
まずは、チームが何を目指すのか、①理想や目標の共有です。次に②役割分担で、誰が何をやるのかを決め、その後は、③コミュニケーションや④情報共有ができているか、⑤モチベーションを上げられているか。これらをチェックしていくことで、チームワーク向上につながります。
これは、『チームワークの心理学』(山口裕幸著)を参考に、サイボウズ流にまとめたものです。チームワークについて語る際は、どうしても歯が浮くような言葉を使いがちですが、そうならないよう、当時の社員たちと、現場でも使えるものとして落とし込んでいきました。
中原:
なるほど、わかりやすいです。このなかで一番大事なのは何だと思われますか。
なかむら:
我々はチームの定義を「理想、目標を共有している集団」としているので、①が一番大切だと考えます。かつ、その理想にメンバー全員が共感しているかどうかが重要です。