J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年01月刊

特集2│OPINION3 自ら工夫する環境づくりや育成のコツ ジョブ・クラフトする人材は 校則がない中学校で育つ?!

ジョブ・クラフティングにおいては、個々が主体性をもつことが欠かせない。
4年前に校則を全廃した東京・桜丘中学校では、生徒が先生と対話を重ねながら、自ら判断して行動している。
同校の取り組みからは、自ら行動や認知を変える、「工夫する人づくり」のヒントが垣間見える。

西郷孝彦(さいごう たかひこ)氏
東京都世田谷区立桜丘中学校 校長

世田谷区立桜丘中学校校長。上智大学理工学部卒業。
1979年から都立養護学校で理科と数学の教員を務める。
大田区、品川区、世田谷区で教員、教頭を歴任。2010年より現職。

[取材・文]=瀧川美里

校則は「合理的でない」

桜丘中学校の職員室前の廊下には半円形のテーブルと椅子が点在しており、様々な理由で教室に入りづらい生徒の居場所になっている(写真

「授業に出ない子には必ず理由があります。ここにいるよりも授業に出る方が絶対に楽しい。そう言える自信があるので、『授業に出たくなかったら出なくてもいいよ』と言っています。このスペースはオープンで人目があり、先生たちも声をかけやすいうえに、不登校の生徒同士のコミュニティができるのでいいですね」

そう話すのは桜丘中学校校長の西郷孝彦氏。この中学校には校則がなく、授業も出入り自由だ。たとえば帰国子女で英語が話せる生徒は中学生レベルの英語の授業に出てもつまらないため、英語の授業時間は図書室などで自習をして過ごす。

「それに、お母さんと喧嘩した生徒はイライラして、1時間目の授業には集中できません。大人も悩みごとがあったら仕事が手につかないですよね。それと同じです。子どもには解決できないこともありますが、クールダウンして自分で解決できた子は、また教室に戻ってきます」(西郷氏、以下同)

校則を廃止した理由は、「合理的であること」にこだわる姿勢にある。校則には合理的な理由がないもの、人権侵害になるもの、発達障害などの特性をもつ生徒にとって負担になるものがあったため、不登校になる生徒もいた。「靴下は白」など、合理的な理由のない校則から少しずつ減らしていき、先生たちが「校則がなくても大丈夫だな」と思えるようになった4年前にすべてを廃止した。

「合理的でないことを強制させられると思考力が落ちます。『こうしなさい』と強制されて、『なぜ?』『理由はない、そういう決まりだから』と言われる環境で育った子は、考える力がつきません。合理的な考え方をするためには、合理的な環境をつくることが必要なのです」

校則以外にも、一般的な学校では当たり前とされているものがここにはない。たとえば宿題は、生徒の学力によって簡単すぎたり難しすぎたりするため廃止した。定期テストも同様に廃止され、代わりに小テストがある。

「100点満点のテストを10回の小テストに分けると、勉強の機会が10倍になります。ほぼ毎日、何かの教科のテストがあるので、みんなよく勉強するんです。定期テストがなくなったことで最初は喜んでいた生徒たちも、結局以前よりもたくさん勉強することになったので、『だまされた』と文句を言っています(笑)。今はみんな慣れましたね」

小テスト後には希望者が再挑戦できる「チャレンジテスト」もある。20点満点の小テストで19点を取っても、残り1点のためにもう1回受けようとする生徒は少なくない。すると同じ場所を2回勉強することになり、さらに勉強の機会は増える。全学年で実施される模試も強制ではないが、生徒たちは「自分の偏差値を知りたい」と積極的に受けているという。

生徒の「やりたい」を尊重し実現をサポートする

校則のない同校で、校則の代わりに生徒手帳に記載されているのが3つの「心得」だ。「礼儀を大切にする」「出会いを大切にする」「自分を大切にする」。数か月かけて作られたこのシンプルな3カ条は、生徒や先生の拠り所となっている。

心得の次に記されているのは1989年に国連で採択された国際条約「子どもの権利条約」(児童の権利に関する条約)だ。自分たちのもつ権利を知ってもらうと同時に、「校則はないが、法律は守らなければいけない」と教えるものでもある。

「喧嘩をしてけがをさせたら傷害罪になるし、人のものを盗んだら窃盗罪です。実際の社会ではそうでしょう。学校だけ許される、ということはありません」

生徒は何かを強制させられることがない代わりに、それらの拠り所を参照しながら自ら判断し、主体性をもって行動することが求められる。生徒の主体性を伸ばすために必要なことは、「やりたいことをやらせること」だと話す西郷氏。

「生徒がやりたいと言ったことは、失敗してもいいのでやらせてあげます。子どもは何かやりたいことがあっても、お金や人脈や知恵が足りないために、なかなか実現できないことがあります。そこで資金や場所を提供し、可能な範囲で少しだけ手伝ってあげると、意外と実現できたりします」

部活動も、コンピュータ部、メイク部、レゴ部など、生徒の提案からユニークなものがたくさん生まれた。活動で必要なものがあれば生徒から予算案を提案してもらい、折衝しながら決定する。うまくいかずに活動が消えてしまうことも多々あるが、失敗しても「よく頑張ったね」と言えば、生徒はもう一度自ら工夫を重ね、挑戦する。この繰り返しによって、ジョブ・クラフティングに欠かせない主体性や、工夫する力や思考力などが育まれる。

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