J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

Learning Design 2019年11月刊

成長の仕掛け人 第9回 伝えきるコミュニケーションで信頼関係を築く 多様性を認め合い だれもが活躍できる 環境をつくりたい

昨年、ヤマハ発動機の人事部長に就任した藁科健一氏のキャリアのスタートは、鋳造技術のエンジニアだった。
異例の抜擢を経て人事のキャリアを歩む藁科氏に、その使命や仕事に対する思いを聞いた。

Profile
藁科 健一 (わらしな けんいち)氏
自動車、貴金属メーカーで鋳造技術のエンジニアとしてキャリアを積んだ後、2003年にヤマハ発動機に入社。
入社6年目より労働組合専従、その後B.C.Pプロジェクトに携わり、2014年に人事部に異動。2018年より現職。

Company Profile
ヤマハ発動機株式会社
1955年、主にオートバイを中心とした輸送用機器の製造メーカーとして創立。
現在は「感動創造企業」を企業理念に掲げ、「パワートレイン技術」「車体・艇体技術」「制御技術」「生産技術」という4つのコア技術を軸に、二輪車、マリン、特機、産業用機械・ロボットなどの分野で事業を展開するグローバル企業。
資本金:859億500万円(2019年6月末現在)
連結従業員数:5万3,977名(2018年12月末現在)

[取材・文]=谷口梨花  [写真]=上野英和

「人の心」に向き合う難しさを実感

大学で材料工学を専攻、自動車メーカーなどを経て、30代の初めにヤマハ発動機に中途入社した人事部長の藁科健一氏。新卒から一貫して鋳造技術のエンジニアとしてキャリアを積んできた藁科氏は、ヤマハ発動機にも鋳造技術者として入社した。ところが入社して5年半が過ぎたころ、労働組合の専従になる。

「それまでは鋳造技術のエンジニアとして理系人生を歩んできたので、全く違う仕事に当初は戸惑いました。労働組合専従になったのはたまたまなのですが、今振り返ると、これが自分のキャリアにとって一番大きなターニングポイントになりました」

労働組合では経営対策局長として労使協議の事務局の役割を担った。そこで鋳造技術の現場との違いを実感したという。

「それまでの鋳造技術では、『物理現象』が相手でした。物理現象に勝てばいいという、ある意味わかりやすい世界。しかし、労働組合では『人の心』が相手です。いまでも覚えているのは、あるとき労働組合が組合員のためにつくった提案に、一部の組合員から思いもよらない強い反対意見が出たことです。物理現象が相手なら、その提案は正解以外の何ものでもない。だから、なぜ反対意見が出るのか初めは理解できませんでした。しかし、よく考えると人にはそれぞれの立場やバックグラウンドがあるので、100人いれば100通りの意見があるのは当然です。それに気づくことができたのは大きかったですね」

「人の心」と向き合う難しさや奥深さを学んだ藁科氏は、反対意見の人への接し方を変えていった。「なぜ反対なのですか?」と反対の理由を相手に素直に聞き、情報を引き出すようにしたのだ。お互いが思っていることを言語化することで、共通認識がもてるようになり、徐々に反対意見の人との交渉もうまくいくようになっていったという。

人事部へ異例のキャリアチェンジ

労働組合の任期終了後は鋳造現場に戻ると思っていた藁科氏だが、任期中に起こった東日本大震災を受けて社内に立ち上がったB.C.P プロジェクトに携わることになる。そこで社員の安全確保や事業継続プランをまとめた後、2014年に人事部に異動。結果的に、労働組合専従後はコーポレート部門のキャリアを歩むことになった。

「労働組合でも組合員の方と密に接してきましたし、B.C.P プロジェクトでは事業継続プランの策定過程で社内の全事業部の担当者と会話をする機会がありました。これらの経験は人事の仕事をするうえでも非常に役立っています」

人事に配属後は、労政グループで就業規則などの制度全般に携わり、その後、人事企画グループのグループリーダーとして女性やシニア世代、外国人社員の活躍推進などを主導。そして2018年に人事部長に就任した。

「エンジニアから労働組合、人事へとキャリアチェンジをするパターンは社内でもまずありませんね。専門性という意味では断絶しているのかもしれません。しかし、大学時代に塾講師をしたり、鋳造現場ではOJT リーダーをしたり、プライベートでは少年サッカーのコーチをしたりと、人にかかわる経験は公私問わず積み上げてきました。いまこうして人事の仕事をしていることを思うと、人生のなかでは自分のキャリアはつながっていると思います」

実は、鋳造技術のエンジニアをしていたときも、その業務特性上、現場に入っていることが多かったという藁科氏。いまのキャリアはたまたまだと笑うが、人への興味関心を、当時の上司や人事担当者は見抜いていたのかもしれない。

人事に抜擢された理由は、藁科氏の人への向き合い方やコミュニケーションスタイルからもうかがえる。

「人と接するときには、相手の年齢や立場に関係なく1人の人間として尊重して真剣勝負をすることを心掛けています。たとえ相手が子どもであっても、妻に『大人げない』と怒られても、そうすることで信頼関係が生まれると信じていますし、何より相手から学ぶことが本当に多いですから。職場でも、ときにストレートすぎると思われても、思ったことははっきり言葉にして、伝えきるようにしています。偽りのない言葉をぶつけるからこそ、腹を割って話せるようになると思っています」

目の前の一人ひとりを尊重しながら、真摯に向き合う。だからこそ、偽りのない言葉が相手に響き、信頼関係を築くことができるのだろう。

グローバルのリソースをフルに発揮できる環境づくりに注力

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:1,977文字

/

全文:3,953文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!