J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年01月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 真のグローバル化に向け勝負はこれからが本番

全世界に拠点を持ち、売上高構成を見ても、ほぼ半分を海外が占める。
押しも押されもせぬグローバル企業と誰もが認める島津製作所。
ところが、服部会長の目には、本当の意味でのグローバル化は、まだできていないと映る。
真のグローバル化に欠かせない条件とは何だろうか。

服部 重彦 (Shigehiko Hattori)氏
生年月日 1941年8月21日
出身校 山梨大学工学部 精密工学科
主な経歴
1964年4月 島津製作所にガスクロマトグラフの技術者として入社
1976年2月 米国の子会社 シマヅサイエンティフィックインスツルメンツインク社に赴任
1980年 帰国
1984年2月 計測事業本部 プロダクトマネジャー兼 技術部第二技術課 主任技師としてガスクロマトグラフの開発に従事
1989年1月 米国の子会社 シマヅサイエンティフィックインスツルメンツインク社に社長として赴任
1993年6月 取締役就任
1995年6月 帰国 取締役試験計測事業部長兼メディカル計測機器部長
1997年6月 常務取締役就任 経営企画室、広報宣伝部担当 試験計測事業部長
1998年6月 常務取締役 分析機器事業部長兼 環境計測事業部長
2000年6月 常務取締役 営業担当
2003年6月 代表取締役社長 就任
2009年6月 代表取締役会長 就任
現在に至る

島津製作所
1875年3月創業、1917年9月設立。「科学技術で社会に貢献する」を社是に、分析・計測機器や医用機器を中心に事業を展開。同社の技術や研究開発力は、ノーベル化学賞受賞者(田中耕一氏)を輩出するなど、世界的に評価されている。
資本金:約266億円、連結売上高:3075億円、連結従業員数:10612名(いずれも2014年3月期)

インタビュー・文/竹林篤実
写真/松田 弘

脱・日本発想のモノづくり

──2014年3月期は、史上最高の好決算となりました。

服部

おかげさまで業績は好調で、計測機器では世界トップ3に入るところまで来ました。主力の計測機器に関しては、売り上げの6割近くが海外市場によるもので、生産拠点に加えて経営拠点も海外に多数展開しています。

現状を一般的に判断すれば、グローバル企業と呼ばれてもおかしくはないのかもしれません。けれども、本来の意味でのグローバル化ができているとは、私自身は全く考えていません。むしろ、これから本格的に取り組むべき課題だと認識しています。

──全世界に拠点を展開する島津製作所の、これからのテーマが「グローバル化」というのは意外です。

服部

確かに拠点は海外に多数ありますが、本来のグローバル化とはそんなレベルのものではありません。

グローバル化のカギは、ダイバーシティにあります。すなわち国家、民族、言語、習慣、性別など多様性に富んだ世界の中で、どれだけ柔軟に対応し、価値を創造できるかということです。各地のニーズに合ったビジネスを展開できてこそ、グローバル化は達成できるのです。

──現状では実現できていないと?

服部

まだまだです。なぜなら、メーカーとして当社は、依然として日本発想のモノづくりから抜け出せていないからです。

日本企業は、どうしても自社視点でのモノづくりにこだわってしまいます。日本で開発した製品を単に現地で展開してもダメなのです。その発想からは、日本で作った優れた製品を、現地事情に合わせてアジャストするといったニュアンスが拭えません。しかしそうではなく、例えば世界中からお客様や営業マンを集めて議論を尽くし、お客様が望む価値を探り、それを生み出すことが重要です。そしてその価値が地域によって違うのであれば、同じコンセプトに基づいた製品を最初から3タイプぐらい用意する。これが本当の意味でのグローバル対応です。

その実現には、まず企業内部でダイバーシティを受け入れることが必要です。そのうえで多様な価値観をぶつけ合い、競い合わせる。そこから新たな価値を生み出し、行動に移すようなメカニズムを構築する必要があります。

グローバル人材4つの要件

──これからの日本のリーダーとして、「グローバル人材」に期待が集まっています。

服部

大学などでもグローバル人材育成を打ち出すところが増えてきました。けれども、企業人として活躍できるグローバル人材の育成は、それほど簡単なことではありません。そうした人材には、「変革力」「実行力」「遂行力」「対話力」が求められます。

「変革力」とは、常に新しい技術に挑戦し、これまでにないものを生み出すことで世界を変えていく力です。

「実行力」は、自分の意志で積極的に動いて挑戦することです。失敗を恐れてはいけません。ちなみに当社では仕事の失敗で解雇された人はいません。失敗からいろいろなことを学び、それを活かすことを求めています。一方、一度挑戦を始めたら途中で放棄しないこと。最後までやり抜くのが「遂行力」です。

そして「対話力」とは、コミュニケーション力です。これを挙げているのは、顧客はもとより関係各省庁や大学の研究者などとの対話や、社員同士の議論の中から斬新なアイデアが生まれるからです。

いずれも大学で身につけることは難しいでしょう。

──確かにそれら4つの力を身につけるのは容易ではありません。どんな訓練を施せばよいのでしょうか。

服部

当社では「海外武者修行」を2011年度から始めました。これは入社5 ~ 10年前後の若手を対象とした海外研修で、公募により志望者を募り、新興国を中心に海外で最大2年間のビジネス経験を積む研修です。

狙いは語学習得や異文化理解などコミュニケーション能力の向上と、1人でやり遂げる力の習得で、派遣されたら最初の1年間をかけて、言語や習慣、文化などを徹底的に学び、残りの1年は、海外の拠点で下働きをします。

──海外拠点に駐在に行くイメージでしょうか。

服部

それとは違います。駐在員として行っては、海外拠点でお客様扱いされかねません。そうではなく現地スタッフをサポートする仕事に就くのです。

駐在員として行くわけではないので、向こうでの住まい探しや車のリースなど、全て自分で行うよう課しています。

ちなみにこのプログラムでは、応募者と実際の体験者共に、女性比率の高いことが特徴です。

──女性のほうがアクティブだとよく言われますが、その通りなのですね。

服部

過去3年間で60名の応募者があり、そのうちの18名が女性でした。さらに実際に修行に出た24名中6名が女性です。全社的に見れば女性比率は10%程度ですから、女性社員の関心度の高さがうかがえます。

現地語の習得については、1年かけるとかなり高いレベルに到達できるようです。アメリカに行った女性は夜間、コミュニティ・カレッジに通っていたそうですが、帰国時にはTOEICで970点を取得していました。中国語に挑戦した人たちも、ほぼビジネスレベルの語学力を身につけています。

何より、修行から戻ってくる全員が、間違いなく二回りぐらい大きな人物になっています。

現地開発に現地人材も育成

──特に近年は、中国での開発拠点強化に取り組んでいるとのこと。

服部

拠点自体はすでに各国にありますが、特に中国で現地の技術者育成に取り組んでいます。その理由は、日本人のエンジニアは、日本的発想から抜け出すことが難しいからです。

中国には当社価格で200万円ぐらいする製品を、90万円ほどで販売するメーカーがあります。我々は、こうした競合に勝っていかなければならない。よい製品だから高くても仕方がないと考えていては、勝負の土俵に上がることさえできないのです。

──戦後の家電メーカーが歩んできた歴史が思い浮かぶようです。

服部

日本企業も昔はアメリカの商品の模倣からスタートし、性能や品質は劣るが安い、というものを作っていました。そして時間と共に日本製品のクオリティは高まり価格も上がっていきましたが、顧客離れは起きませんでした。むしろ日本製が高級ブランドの証とさえなりました。当社の製品も、価格が互角でも充分戦えるところまで品質が高まり、島津という名前も分析機器の業界で知らない人はないぐらいブランド力が上がりました。

同じことが今、新興国と日本の間で起こっています。彼らの製品は、日本の製品より性能的には劣っていますが価格はほぼ半額です。しかしいずれ彼らは我々に追いつき追い越すことになるかもしれません。それに立ち向かうために今何をすべきかを考えねばならないのです。

──そこで勝ち残るための方策が、現地での人材育成となるわけですね。

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