J.H.倶楽部

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Learning Design 2019年05月刊

成長の仕掛け人 第6回 情熱と言葉で “寄り添う人事”を実践する

ガラス・電子・化学品・セラミックスの4つの事業領域でグローバルに事業を展開するAGC。
昨年には社名を変更し、グローバル化に拍車をかける。
現在人事部トップを務める簾孝志氏は、エンジニアリング部門出身。
社内でも前例のない抜擢に当初は戸惑いも覚えたが、“人を活かす人事”への改革も、軌道に乗り始めているという。

Profile
簾 孝志 (みす たかし)氏
AGC
常務執行役員 人事部長

1983年にエンジニアとして入社。本社工務部に配属。
その後、工場勤務を経て1995年にインドネシアに転勤。2002年に経営企画室。
2005年にはディスプレイカンパニー(当時)で液晶ガラス事業立ち上げ期の生産統括を担う。
2008年にエンジニアリングセンターへ異動。
2010年エンジニアリングセンター長を経て2016年より執行役員人事部長。
2019年1月より現職。

Company Profile
AGC 株式会社
1907年創立。ガラス・電子・化学品・セラミックスの4つの事業領域で、素材開発と製造を手掛ける。
今では30を超える国と地域に展開し、フロート板ガラス、自動車用ガラスなどで世界No.1シェアを誇る。
資本金: 908億7,300万円
連結従業員数:5万4,101名(2018年12月31日現在)

[取材・文]=田邉泰子  [写真]=中山博敬

情熱の塊の集団に飛び込む

「1年目でも、数千万円規模の仕事ができる」――。

大学の先輩のそのひと言で、旭硝子(現AGC)に入社を決めたという簾孝志氏。大手の割に同期の数も少数で、一人ひとりを大切にする雰囲気も好印象だったという。

最初に配属されたのは工務部(現技術本部生産技術部)。製造ラインの設計から機械の設置まで一切を担う部署だ。通常、新入社員は工場に配属されたが、簾氏は1年目から本社勤務。周りは現場をよく知るベテランのエンジニアばかりで、すぐ上の先輩でも7歳以上、年が離れていたという。

「だれもが仕事にプライドを持ち、血気盛んでしたね。入社間もないころ、出張帰りの寿司屋で『辞めるなら今だぞ!』と胸ぐらをつかまれたことがあったんです。でもその言葉の裏には、『しっかり覚悟を決めてやれよ』という思いがあったのだと思います。当時は本気で叱ってくれたり、熱く人間味のある先輩が多かったですね」

常に全力でぶつかる先輩たちに、戸惑ったこともある。だが、そんな先輩との出会いにより、人の心を動かすのは情熱だということを知った。気づけば、自分も仕事にのめりこんでいたからだ。

「どんなに偉い人が何を言おうと、エンジニアとして説明責任を果たすという考えは今も変わりません。担当範囲はだれにも負けないという気持ちで、食らいついていました」

さらに設備系の新人エンジニアは入社1年目で50枚、2、3年目は年間100枚の図面を描く伝統もあり、話を聞けば自然と技術手法と図面が頭に浮かぶようになっていった。

言葉には壁を越える力がある

その後、簾氏は工場勤務も経験しながら製造ライン設置のプロジェクトマネジメントに携わるようになる。100億円近くのビッグプロジェクトを担当することも珍しくなかった。

1995年にはインドネシアに赴任。グループ会社で技術面・運転面の改善や日本本社との調整役を担った。

「インドネシアでは、異文化に直面する毎日でした。国民の多くがイスラム教徒で、金曜の昼になると従業員たちは会議もそこそこに礼拝に出かけてしまうんです。楽観的な国民性なので『ダイジョウブよ』と言われても、その根拠はどこにあるのかよくわかりませんでしたね(笑)」

また、赴任中はアジア通貨危機の影響で、情勢不安定な時期とも重なった。1km も離れていない場所で暴動や爆発が起こっても、映画を観るなどのんびり過ごす生活に驚きを隠せなかった。

「彼らに対し、日本人の考え方ややり方の枠に当てはめるのは違うと思い、細かいことに目くじらを立てないようにしていました。さらに、どうすれば彼らに寄り添うことができるか考え、必死にインドネシア語を勉強しました。異文化コミュニケーションにおいて、言葉は道具にすぎないという考えもありますが、私の場合は言葉に助けられた部分があります」

グローバル化というと、とかく英語が注目されるが、現地語に勝るものはないことを実感した。だが、インドネシアから帰国し経営企画室に異動した際、“言葉の壁”は、日本人同士のコミュニケーションにも存在すると身をもって知ったという。

「以前いた場所は、結局設備設計の世界であって、国籍が違っても技術者同士の共通言語で話が通じていたのです。それが経営企画室に移りメッセージの対象が広がったことで、今までの感覚では伝わらないとわかりました」

2つの環境に身を置き気づいたことは、思いや考えを言葉にすることの大切さだった。カルチャーやバックグラウンドの異なる相手には、“何となく”では伝わらない。これは、ダイバーシティが加速する今の時代にも通じる重要な教訓になっている。

規則から戦略へシフトする人事

簾氏が人事部長の内示を受けたのは、エンジニアリングセンター長をしていたころ。これまでは、人事部門のトップに就くのは人事か総務出身者が通例だっただけに、青天の霹靂だった。

「内示があったのも公表される数十分前のことですよ。島村(琢哉代表取締役・社長執行役員CEO)はいつもの調子でニコニコと話していましたが、あまりに突然の出来事で頭が真っ白になりました」

前例のない大胆な配置に、人事部のメンバーも驚いたという。だが変革のサインであることはだれもが気づいていた。その証拠に、簾氏は人事部に移動して早々、これまでの人事に対する印象を部下に尋ねられた。

「率直に、外から見たイメージを答えました。『様々な制度が整備され、安心して働けるのは人事のおかげだけれど、存在を意識したことはなく空気みたいなものだ』と。それから、『人事制度の運用は少し面倒だったけれど、特別不満に思うこともない』ということも話しました」

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