J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2013年12月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 不言実行より有言失敗!チャレンジを促す“人中心の経営”とは

三洋化成工業は、界面活性剤や高吸水性樹脂などの機能性化学製品のメーカーだ。顧客の製品の機能を左右する材料を製造するだけに、顧客ニーズに対応した開発力が求められる。研究開発に全従業員の30%を投入するという同社の人材育成の取り組みについて、安藤孝夫社長に聞いた。

安藤 孝夫(Takao Ando)氏
三洋化成工業 代表取締役社長

生年月日 1953年3月7日
出身校 大阪大学大学院 工学研究科
主な経歴
1977年4月 入社
1993年4月 新技術・プロセス開拓室長
1998年6月 取締役 研究本部副本部長
2001年4月 取締役 研究本部長
2003年6月 執行役員 研究本部長
2004年6月 執行役員
国際事業推進本部長
2007年6月 執行役員
サンノプコ株式会社
代表取締役社長
2008年6月 常務執行役員
サンノプコ株式会社
代表取締役社長
2010年6月 取締役 兼 専務執行役員
営業第1部門担当 
2011年6月 代表取締役社長 兼
執行役員社長 就任
現在に至る

三洋化成工業
1949年に界面活性剤メーカー「三洋油脂工業」として創業、1963 年社名変更。各種の高分子薬剤や樹脂、特殊化学品などを開発し技術領域を拡げてきた。紙おむつの素材となる高吸水性樹脂を1978 年に世界初、工業化した同素材の草分け。
資本金:130 億5,100万円、連結売上高:1,426億円、従業員数:1,865 名(関係会社への出向者含む。いずれも2013年3月現在)

インタビュアー/赤堀たか子
Interview by Takako Akahori
写真/行友重治
Photo by Shigeharu Yukitomo

カギは“ニーシーズ”とローテーション

――シャンプーの原料から自動車部品の素材まで、幅広い分野の化学製品を開発・製造されています。人材開発で特に注力されているのは、どのような分野の人材ですか。

安藤

当社はパフォーマンス・ケミカルス、つまり組成でなく、機能や性能に重点を置いた機能性化学製品の専業メーカーで、現在約3,000種類の製品を扱っています。付加価値を生むことが当社の事業のカギとなるので、研究開発に特に力を入れており、全従業員の30%を研究開発に充てています。

――技術開発型の企業の場合、開発に専念してしまい、顧客ニーズが見えなくなりがちだと聞きます。

安藤

当社も、そこに一番注意を払っています。社員に対し言い続けているのは、「どんなに素晴らしい技術でも、顧客ニーズに対応できないものは意味がない」ということです。しかも、顕在化しているニーズだけでなく、5年、10年先に求められるであろうものも考えられなければなりません。そのためには、個別のニーズやシーズの研究だけでなく、ニーズ同士やシーズ同士を掛け合わせたり、ニーズとシーズを融合させた“ニーシーズ”を探ったりと、多角的なアプローチが求められます。

そこで当社では、ジョブローテーションを積極的に行い、さまざまな研究に取り組む機会を設けています。異なる分野の技術情報がミックスされることで、新しい技術を生み出す可能性が高まるからです。

研究者は専門職なので、あまり異動させない企業もありますが、当社のように、顧客の事業分野も製品も多様な場合、研究者は幅広い知識や経験が重要になるため、開発部内はもとより、営業や生産部門も含めたローテーションを行っています。

有言実行のチャレンジ制度

――開発意欲を高めるために、どのような工夫をされていますか。

安藤

人が意欲的に仕事をするには、金銭的な報酬だけでなく、達成感を味わえることが大切です。当社では、“おもしろ、はげしく”をモットーに、人が夢を持ち、能力を十二分に発揮しながら仲間との切磋琢磨を通じて自己実現していけるような環境を整える「“人”中心の経営」を行っています。

その基本となるのが、「有言実行によるチャレンジの評価」です。

当社では、“宣言しないで成功した人”より、“宣言して失敗した人”を高く評価しており、そうした挑戦を奨励するために「チャレンジ契約制度」を設けています。これは、挑戦者と社長との間で「チャレンジ契約」を締結し、チャレンジが成功すれば報酬を得られ、失敗すればペナルティが課される制度です。チャレンジする「目標」「期間」「協力者」「成功報酬」、および「失敗した場合のペナルティ」は挑戦者自身が設定し、それを会社に申請することで、主体的に取り組めるようにしています。

若手のチャレンジを促す仕組みには、「パーソナル研究チャレンジ」というものもあります。これは、20 代後半の若手に本人が担当する研究で挑戦させるというもので、こちらは失敗してもペナルティはありません。逆に挑戦が評価されれば、研究組織(ユニット)を立ち上げ、リーダーとして研究に取り組むことができます。

ちなみに、当社では、管理職を「経営補佐職」と呼びます。管理職という言葉には、“部下がミスしないよう管理する”というイメージがあるでしょう。ですから、トップの経営を補佐し、チャレンジする人間を育てていくという意味を込め、「経営補佐職」としているのです。

―― 組織を活性化するためには、どんなことに取り組んでいますか。

安藤

組織をフラット化し、風通しをよくしています。研究部長のすぐ下にユニットを置き、意思決定の階層を少なくすることで、機動性のある開発体制を敷いています。

また、コミュニケーションを促進するため、役員・経補職クラス・若手のキャリア別に、「近未来・未来・遠未来道場」を開催しています。これは、“道場主”となった人が部署・職階を越えた7 ~ 8名の門下生と歓談や会食を通じて意見交換するというものです。運営の仕方は、道場主によりさまざまで、入念な準備をする人もあれば、単なる飲み会になっているケースもあります(笑)。ただ、組織横断的な集まりにすることで、仕事を越えた交流が期待できます。

さらに業績評価も、プロフィットセンターごとに実施し、小さな研究でもしっかりと利益管理をすることで、利益マインドを持つことを意識づけています。

なお、利益マインドを持たせ過ぎると、目先の研究に終始するのではと危惧する声もありますが、探索的な研究など、短期では成果が出ない研究は、取り組み方法やプロセスをしっかり見ることで、目先の研究ばかりにならないようにしています。

グローバル化も基本は信頼地域性を考慮した対応を

―― 開発力の強化と並び、グローバル人材育成にも取り組まれています。

安藤

中期経営計画(2011年度~2014年度)では、重点目標の1つに「グローバル化の推進」を掲げ、グローバル人材の育成に力を入れています。

10年前に国際部門を担当した際に痛感したのは、グローバル人材の育成と現地スタッフへの権限委譲の必要性でした。当時はまだ、海外での事業も始めたばかりで、現地への権限委譲も進んでおらず、海外の子会社では、何かを決めるたびにいちいち本社にお伺いを立てていました。本社は、英語のメールを日本語に翻訳してから判断を下すため、その間、現地では何もできない。経営にスピード感があまりありませんでした。

そうした反省から、現在は海外留学制度や海外研修制度などを導入し、語学力を磨くと共に、国際ビジネスに必要な知識を修得させています。また社内でも、英語・中国語・タイ語の研修を行っています。

――海外ビジネスは、従来の発想が通じない部分が多いといわれます。

安藤

たしかにそういう面はあります。たとえばインドでは、壁の塗料を毎年塗り替えます。そうなると、耐久性よりも価格が安いことのほうが重要になります。したがって、“高品質であれば売れるはず”という従来の発想を変える必要があります。

ただし、事業を展開するうえで根本的に大切なことには、国内も海外も大きな違いはありません。大切なのは、相手がどこの国であれ、しっかりと信頼関係を築くことです。そのうえで、国ごとに異なるニーズに柔軟に対応していけばいいのです。

―― 研修の話も出ましたが、以前はOJTが中心だったとのこと。今、教育研修の整備を重視されるのはなぜですか。

安藤

かつてのトップには、「世間を見るな」と言った人もいましたが、それは、「世間を見れば同じようなものをつくってしまう。周りを気にせずに独自性を磨け」という思いからでした。しかし、世間を知ることで世間にないものもわかります。独創的な開発をするためには、やはり世間を知ることが重要なのです。

世間を見る際には、物事を捉えるためのフレームワークが必要であり、それを身につけるためには、専門的な学習が必要です。現在、技術開発を効率的に進めるために、大学やお客様と共同研究を行っていますが、そうした場でも考え方のベースとなるフレームワークは欠かせません。教育研修ではそういった、ものの見方・考え方などを体系的に学ぶことができるので、重視しているのです。

率先してきつい仕事を担当し信頼を獲得

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,946文字

/

全文:5,892文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!