J.H.倶楽部

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Learning Design 2018年07月刊

インストラクショナルデザイナー 寺田佳子の 学びのキセキ 第1回 科学するファーマー・井出寿利さん IoT から生まれた美しきトマトたち

人は学べる。いくつになっても、どんな職業でも。
学びによって成長を遂げる人々の軌跡と奇跡を探ります。

井出トマト農園(神奈川県藤沢市)の代表取締役、井出寿利さんは代々、露地栽培をしてきた農家の15 代目。
全国農業コンクールで農林水産大臣賞を受賞するなどその取り組みに熱い注目が注がれる、若き農業経営者です。
彼が繰り広げるトマト作りのイノベーションとは。

Interviewee Profile︱ 井出寿利(いでひさとし)氏
井出トマト農園代表取締役。2003 年、日本大学生物資源科学部卒業。不動産営業会社に就職するも、2006 年、家業を継ぐべく就農。現在、神奈川県藤沢市、静岡県富士宮市「朝霧高原農場」にて、13 品種のトマトを年間を通じ生産。IoT を駆使した栽培手法は全国的に話題となり、数々のメディアで取り上げられている。農林水産大臣賞をはじめ受賞歴多数。


Interviewer Profile︱ 寺田佳子(てらだよしこ)氏
インストラクショナルデザイナー。IDコンサルティング代表取締役。ジェイ・キャスト常務執行役員。日本e ラーニングコンソシアム理事。熊本大学大学院教授システム学専攻講師。ICTを活用した人材育成のコンサルティングの他、リーダーシップマネジメント、プレゼンテーションセミナーなどの講師として国内外で活躍。
『学ぶ気・やる気を育てる技術』(JMAM)他、著書・訳書多数。

プロフィールこぼれ話★1 幼稚園から大学までは日本と
海外を行ったりきたり。第二の故郷はパリですが、一番住
み慣れているのは湘南。歩くより泳ぐほうが得意です!

写真/和田佳久

01 15代目、“トマトや”を目指す

トマト農園にいると、なぜこんなに幸せな気持ちになるのだろう?

見上げるほどに伸びたトマトの木のたくましさには思わず「すごーい!」と目を見はるし、鮮やかな緑の間にオレンジの“ピッコラカナリア”や紫色の“トスカーナバイオレット”などのミニトマトが宝石のように輝いているのを見つけると「かわいい!」とささやいてしまうし、摘みたてのトマトを口に入れると「ん~、ジューシー!」と笑みがこぼれる。

ここは湘南・藤沢市の井出トマト農園。9棟のハウスで、大玉“桃太郎”からミニトマトまで13種類のトマトの栽培や加工品の製造をしている。

社長の井出寿利さんは代々、露地野菜を作ってきた農家の15代目。父の代で初めてトマト栽培に挑戦した。

「小さい頃からハウスに入って、両親が作業するのを見ながら遊んでいました。いわば、“トマトや”の英才教育ですね(笑)」

トマトと一緒に育っただけあって、「僕ね、幼稚園の卒園アルバムで『トマトやさんになる』って書いていたんです」
というから、ずいぶんと早い就活宣言である。

ところが、まっすぐに“トマトや”になったかというと、そうではない。
大学卒業後、なんと不動産営業の会社に就職したのである。

おや、また、なぜ営業の会社に?

「ウチのような農家は、栽培には熱心に取り組むのですが、収穫したものは農協に持っていくだけ。営業とはほど遠い経営だったんです」

親父と同じことをしていても親父を超えることはできない。何か新しいものを身につけなくては……。

そんな思いを胸に飛び込んだ営業職だったが、最初の3ヵ月は全く数字が残せなかった。モヤモヤした思いと焦る気持ちからか、お客さんの気持ちを考えずに強引に話を進めることもあった。

そんなある日、お客さんからクレームがきて、店長にこってり絞られ、ボロボロ泣いた。

「やっぱり営業なんて無理……」の涙でしたか?

「いえ、クレームの原因をはっきり指摘してもらって、スッキリしたうれしさで」

はあ? そっちの涙ですか!

それにしても、失敗してもタダでは起きない、いや「失敗したからこそ一歩前進できる」と考えるとは、まことにたくましいレジリエンス(回復力)だ。

その日を境に、接客の仕方が変わった。お客さんが本当に求めているものは何か、どうすればそれに応えることができるのか。それだけを真剣に考えて提案するようになった。

すると、月に0件だったのが5件、10件と伸び、やがて20件の契約が取れるようになり、同期20人のトップになった。

こうして丸2年が経った頃……。

父親から「帰って来てほしい」と言われた。目の手術に、自宅でボヤを出すという事故も重なり、父親も気弱になったのかもしれない。ひとりで頑張ってきた疲れが出たのかもしれない。

ふと、中学生の頃に亡くなった母親の最後の言葉が浮かんだ。

「農業で成功してほしい……」

井出さんは、25歳で“トマトや”になった。2006年のことである。

02 センスよりセンサーだ!

トマト農園に戻って1年目は、ひたすら父親の仕事を見習った。

きっと、手取り足取り教えてくれたのでしょうね?

「いやそれが、親父は『聞かれたってわかんねーよ』が口癖で(笑)」

たとえば、ある朝、ハウスの中で、「おい、寿利、いいか、この環境がトマトにとってちょうどいいんだよ!」と言う。

「ちょうどいい?」

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