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巻頭インタビュー 私の人材教育論 ミッションを遂行するのは “心と科学”のバランス人材
1972 年の創業以来、「おいしさ、安全、健康」という考え方を大切にした商品を「真心と笑顔のサービス」と共に提供することに取り組んできたモスフードサービス。
国内の協力農家で安全に生産された生野菜を使い、アフターオーダー方式で提供することにこだわる同社の姿勢は、ファストフード業界で一線を画す。
そうした同社は人材育成においては、何を重視しているのか。
2016 年より社長に就任した中村栄輔氏に聞いた。

世界で評価されるブランドをめざす
―中期経営計画の2年目を迎えました。貴社の経営戦略を教えてください。
中村
中期経営計画でめざしているものは、「全社ミッション」と「戦略ミッション」で表しています。全社ミッションは「世界で認められるおいしさとおもてなしを確立する」。これを具体化としたものとして、国内事業、海外事業、新規事業について、それぞれ戦略ミッションを掲げています。
国内事業では「既存店売上101%を達成し続ける」。わずか1%、と思われるかもしれませんが、この目標には、普通なら2 ~3%下がる環境の中でも、着実に成長していこうという思いを込めています。残念ながら1年目は100%で、わずかに届きませんでした。
海外事業の戦略ミッションは「400店舗をめざし、成長エンジンになる」。当初の事業計画では374店でしたが、伝わりやすいようにキリのいい数字で400店にしました。もちろん出店数だけを追いかけてはダメ。きちんと利益を出す店をつくってこそ成長エンジンになるのですから。今のところ海外については順調に推移しています。
3つめの新規事業は、「第2の柱をFC展開する」。これが最も苦戦していて、△(三角)の状況です。

ちなみに全社ミッションに関しては、今回の中計(2016 ~ 2018年度)だけでなく、次の中計(2019 ~2021年度)まで見据えています。なお、2021年度末までにグローバルブランドとして、米インターブランド社が発表する「世界企業ブランド」の評価対象に加わりたいと考えています。今、モスの展開は、国内とアジアが中心ですから、今後、欧米を含め、世界中の人々においしさとおもてなしをお届けした結果として評価されたいですね。
「心」と「科学」を兼ね備えた人材
―それらのミッションを遂行するためには、どのような人材が必要でしょうか。
中村
一言で言うと、「心」と「科学」のバランスが取れた人材。心とは、思いや熱意などの情緒的なもの。科学は客観性や合理性―この両面を兼ね備えた人材が必要です。
心と科学はどちらも重要ですが、先に来るのは、心です。創業者の櫻田慧は、商品やサービスに心をプラスすることが大切だと言っていました。まさしくその通りで、心がないまま数字だけを追いかけると、企業として誤った方向に進みかねない。この順番を間違ってはいけません。
ただ、心さえあればいいというのも違います。例えば人に自分の考えを伝えようにも、理論が通っていなければ相手に理解されません。理屈のない人ほど、理解しない相手に「キミには心がない」などといって抽象的な言葉で逃げてしまう。これでは人は動いてくれません。まず大切なのは心ですが、科学をプラスしてこそ、心が活きるのです。
つけ加えるなら、実行力も大事です。私たちは評論家ではなく実務家。理屈を言うだけでなく、それを自ら実行していく人が理想です。
―モスが大事にしている「心」と「科学」は、具体的にどのようなものですか。

中村
プロフィール

中村栄輔(Eisuke Nakamura)氏
モスフードサービス 代表取締役社長
生年月日 1958年6月13日
出身校 中央大学法学部
主な経歴
1988 年6月 モスフードサービス 入社
1995年7月 法務部長
1997年3月 社長室長
2001年5月 店舗開発本部長
2005年3月 執行役員 営業企画本部長
2008 年3月 執行役員
モスフードサービス関西 代表取締役社長
2010年6月 取締役 執行役員 開発本部長
2012年11月 取締役 執行役員
国内モスバーガー事業 営業本部長
2014 年4月 常務取締役 事業統括執行役員
2016 年6月 代表取締役 取締役社長 就任
現在に至る
企業プロフィール
モスフードサービス
1972年設立。「食を通じて人を幸せにすること」という経営
ビジョンの下、設立当初から作り置きをしない方式で商品を
提供。日本の食文化を取り入れた商品を70 年代から次々
と生み出す。おいしく、かつ安全・安心・健康な商品提供を
行うため、国内の協力農家で農薬や化学肥料に極力頼らな
い栽培方法で育てられた生野菜を1997年より全店導入。
資本金:114億1284万円
連結売上高:711億1300万円
連結従業員数:1375人(いずれも2016 年3月)
インタビュー・文/村上 敬
写真/中山博敬