TOPIC KAIKAカンファレンス2017レポート VUCA時代に日本企業が選ぶ 組織と人づくりの選択肢【後編】
人・組織づくりの先進事例が集まる「KAIKAカンファレンス」。
2014年のリニューアル後、4回目を迎えた今回は、グローバル展開に伴い、人材マネジメントを大きく転換する最中の日本企業の具体的事例や、パフォーマンス・マネジメントの方法、AIの導入なども報告された。先月号に続き、その模様の一部をレポートする。
「人材育成×評価制度」 進化型パフォーマンス・マネジメント
2月8日(水)
【講演者】ファイザービジネス・パートナー人事グループ IM/I&I/RD人事チーム 部長 山﨑泰一氏
【コーディネーター】中央大学大学院 戦略経営研究科 教授 中島 豊氏
ファイザージャパンは2008年、グローバルHRモデルの導入を機に人事制度の改定に着手し、評価制度についても段階的に進化型への移行を図ってきている。順位づけ(レーティング)の廃止をどのように効果的な人材育成につなげているのか。制度改革に携わる山﨑泰一氏が紹介した。
日本的組織からグローバル体制へ
私は営業職を経て人事総務部門に異動し、2008 年以降は人事企画グループの責任者として、役割等級制度の導入や評価制度の改定に取り組んできました。今回は、その過程や取り組み内容についてご紹介します。
製薬業界のグローバルでトップ10に入る企業は合併を繰り返し、現在の形になっています。膨大な研究開発費を投じても、研究開発の生産性は下がる傾向にあり、大企業も生き残りをかけて、M&Aだけでなく事業交換などいろいろな挑戦をしています。
当社は人事制度面では、早期から週休2日制、フレックスタイムなど先進的な取り組みを導入してきましたが、企業風土については極めて日本的で、日頃は外資系と感じることがほとんどありませんでした。グローバルでつながっているのは社長のみで、役員も含めて全員が日本の社長に報告を行っており、おっとりしたモノカルチャーであったと思います。
しかし、2009年にグローバルで組織再編が行われ、4つのビジネスユニット(BU;事業部門)に分かれました。国単位で成長をめざす従来の体制から、各部門ごとにグローバルで統合され、より小さな組織で、それぞれの顧客のニーズに機敏に応えていく体制となりました。つまり、日本という枠組みではなく、事業部門ごとにグローバルで事業が進められるという体制に変化しました。
OWNIT!を自社のカルチャーに
BU制を運営するカギになるのがラインマネジャーです。小さな組織の運営には、マネジャーの機動的な判断や行動が重要になるからです。そこで彼らの育成にフォーカスすることになりました。
当社が位置づけているマネジャーの役割は「結果を出す」「人財を活用し育成する」「将来を確かなものにする」の3つです。特に人財の活用では、効果的なチームを形成し、仕事を任せることで部下を育てることが大事だと繰り返し伝えています。
BU制に移行後、ビジネス変革のために当時の企業文化に必要なことは何か、マネジャーに調査をした結果、それはオーナーシップ文化だと判明しました。それを「OWNIT(オウンイット)!」(図1)と名付け、会社のカルチャーにする取り組みが始まりました。
役割明確化と総合評価を導入
前置きが長くなりましたが、今回の本題である人事制度改革は、BU制という組織再編が大きな起点になっています。
実はこれに先駆けて、2008年、グローバルHRモデルを導入しました。人事の仕事を、エンタープライズ(制度開発、戦略立案)、ディビジョナル(ビジネス戦略のサポート)、マネジャー&オペレーショナルサポート(人事オペレーション実行、マネジャーのサポート)の3つに分類するグローバルモデルに一本化し、グローバルで統合・再編成したのです。HR(人事部門)はグローバルで一つで、グローバルレベルの戦略策定がエンタープライズとディビジョナル、各国のマネジャーのサポート・コーチングがマネジャー&オペレーショナルサポートという形です。
日本で人事制度改革を行っていくに当たって、どういう社員を育成していけばよいのかを検討し、社員育成の基本方針のキーワードを「OWNIT!」「チャレンジ&イノベーション」「コミットメント」と定め、これにつながる人事制度改革を進めていくこととしました。
改革の主なテーマは、等級・登用、評価・育成と報酬に区分けし、これらが効果的に連携できるように制度設計を進めました。
等級制度では、各等級の役割を明確にしました。管理職の等級基準をグローバル基準に合わせ、一般社員には2014年にMR(医薬情報担当者)の役割等級制度を導入しています。それまでのコンピテンシーを基準とした等級から、役割の大きさによって等級を決定する仕組みに変えました。この制度では直近の評価結果に基づき、会社のアサイン(任命)によって、役割の変更を行うことで等級が上下することになります。等級の変更は管理職と一般社員間も含めて実施しています。
評価面では、まず総合評価を導入しました。以前は目標の達成度合いを数値化し、結果に応じて点数を積み上げる、つまりできたか、できなかったかで点数がつく仕組み的には非常に分かりやすい制度でした。しかし、この制度では目標に記載されていない貢献が評価されにくいこと、そしてあらかじめ達成できそうな目標設定にとどまり、挑戦的な目標が立てられないことが課題でした。