調査レポート:JMA「日本企業の経営課題2016」 経営者が考えている 組織・人材に関する課題とは 〜経営・事業に貢献する人材開発部門に向けて〜
日本能率協会(JMA)では、2016 年12 月、第37 回目となる「日本企業の経営課題調査」の報告書をまとめた。
この調査は、企業経営者を対象として、当面する経営課題についての認識を明らかにするために実施している。
本稿では調査結果の中から、人材開発部門が対処するべき組織・人材に関する課題について考察する。
「人材強化」は常に重要課題
日本能率協会(JMA)では、企業が抱える経営課題を明らかにし、これからの経営指針を探ることを目的として、1979年から企業経営者を対象とした調査を実施している。第37回目となる2016年度は、昨年9月に実施し、211社から回答を得た。本稿では、さまざまな調査項目の中から、特に組織や人材に関連する調査結果を紹介し、日本企業の人事・人材開発部門が対処すべき課題について考察する。
まず、経営者が認識する経営全般に関する課題認識の動向から見ていきたい。本調査では、毎回、経営課題に関する項目を20ほど挙げて、その中から特に重視するもの3つを選択してもらっている。その結果、2016年度においては、「収益性向上」が前回(2014年度)よりも8.9ポイント増加して第1位に、次いで「人材の強化」が第2位となった。従業員規模別に分析すると、中小企業(従業員数300人未満)においては「人材の強化」が第1位となっており、大手企業(同3000人以上)では「グローバル化(グローバル経営)」「適切なコーポレート・ガバナンスの推進」が相対的に高くなっている。
この調査項目について、過去10年間の主要項目の推移を表したのが図1である。リーマンショック後に「売り上げ・シェア拡大」の比率が急上昇したものの、2012年以降は低下傾向にある。一方で、「新製品・新サービス・新事業の開発」「事業基盤の強化・再編」の比率が高まっている。売上拡大や収益性向上といった結果に向けた打ち手として、これらの経営施策に対する課題認識が高まっているということだろう。
そして、「人材の強化」は、過去10年間にわたって、常に上位に挙げられていることが分かる。企業はさまざまな課題に直面しているが、それらを克服するためには、やはり、人材強化が重要であるという経営者の課題認識が表れているようだ。
組織・人事領域の課題
本調査では、経営全般の課題に関して、経営機能別の課題についても尋ねている。そのうちの組織・人事領域に関する調査結果を示したものが図2である。左側が前回(2014年度)、右側が今回の結果である。
2016年度の最上位の課題には、前回と同様、「管理職層のマネジメント能力向上」が挙げられている。次いで、「次世代経営層の発掘・育成」が第2位となっている。
前回と変化している点としては、「優秀人材の獲得」が前回より15.6ポイント増加して、第3位となっていることが挙げられる。事業をけん引する優秀な人材に対する不足感が強まっていることがうかがえる。
また、「残業時間の適正管理・削減」(前回より+4.7ポイント)、「多様な働き方の導入」(同+7.0ポイント)の比率が高まっていることにも注目したい。昨年来、政府において「働き方改革」に関する施策が推進されているが、これらの動きに対する企業の関心の高まりが表れているといえるだろう。
組織・人事領域の課題認識を、従業員規模別に比較すると、大手企業においては、「グローバル経営人材の育成・登用」の比率が高くなっている傾向が見られた。先ほどの経営課題において、大手企業では「グローバル化(グローバル経営)」の重視度が高かったが、人材面でも課題となっていることが分かる。また、「女性活躍・ダイバーシティの促進」の比率も、中堅・中小企業に比べて相対的に高くなっていることも特徴である。
一方、中堅企業では、「管理職層のマネジメント能力向上」の比率が60.9%と高くなっている。組織の規模が大きくなるのに伴って、組織運営の中核を担う管理職層のマネジメント能力を高めることが課題となっているということであろう。
また、中小企業では、「優秀人材の獲得」「専門職人材の強化」「若手社員・優秀人材のリテンション」の比率が、相対的に高くなっている。中小企業においては、経営課題として「人材の強化」が第1位に挙げられていたことは冒頭で述べたが、組織・人事領域においても、事業に必要な人材をいかに獲得・育成し、引き留めるかが課題となっていることがうかがえる結果となった。
その他、製造業と非製造業の結果を比較すると、製造業では「女性活躍・ダイバーシティの推進」「グローバル経営人材の育成・登用」「海外現地社員の育成・登用」の比率がより高い。他方、非製造業では「残業時間の適正管理・削減」「多様な働き方の導入」「若手社員・優秀社員のリテンション」がより高い傾向が見られた。非製造業においては、生産性を高め、かつ、若手社員を採用し引き留めるためにも、「働き方改革」を進める機運が高いことが表れているものと思われる。