巻頭インタビュー 私の人材教育論 国際創薬企業の基盤は 自ら学び考える、強い個の育成
田辺三菱製薬は、2011年から2015 年までの5年間、国内で6つの新薬を上市した。
海外でも、画期的な糖尿病治療薬、多発性硬化症治療薬の2つの大型製品を上市している。
新薬開発の成功率は、化合物3万個に1個と極めて低い。
にも関わらず、相次いで新製品を世に出す創薬力を支えているのは、治療法のない病に苦しむ人を、1人でも多く救いたいという強い思いだ。
使命感に燃える人材の育成法について、土屋会長に聞いた。
製薬業に携わる者の矜持
―医薬品業界を取り巻く状況を、どのように見ていますか。
土屋
世の中の関心は、少子高齢化が進む中で健康寿命を伸ばすことに向かっています。高齢化の進展、医療技術の進歩等により、国民医療費は増加し続けており、このままでは保険財政が維持できません。政府は、これまで医療費抑制のために、薬の値段を引き下げる施策を中心に行ってきました。増え続ける医療費を、誰がどう負担するのか、国民的議論が必要な時期にあります。
―かといって、人の命を守るために薬は欠かせません。
土屋
その通りです。病気を治すのは薬なのです。しかも、世の中にはアンメットメディカルニーズ、つまり治療法の見つかっていない病気が、まだたくさんあります。そうした病気に苦しむ患者さんを救うために、新薬開発を怠ることはできません。製薬業の本質とは、命を救う社会貢献なのです。我々、製薬業に携わる人間は、そうした矜持を胸に日々業務に努めています。
―その矜持が経営の土台にあるということですね。2016 ~ 2020年の中期経営計画の、出だしはいかがですか。
土屋
おかげさまで2016年4月からスタートした第10 期も、順調な滑り出しとなりました。ただ、我々の利益の大半は、海外からもたらされています。国内だけでは、巨額の研究・開発費用を賄うことができない状況です。ノバルティス(スイス)に導出した多発性硬化症の治療薬ジレニアと、ヤンセン・ファーマシューティカルズ(米国)に導出した2型糖尿病治療薬のインヴォカナが、年間売上高10 億ドルを超える製品に育ってくれました。そのロイヤリティ収入が、経営基盤を支えています。
4つの挑戦で未来を切り拓く
―中期経営計画では、4つの柱が打ち出されています。
土屋
2020 年度の数値目標として売上高5000 億円、コア営業利益1000 億円と設定しています。国内3000億円、米国事業の本格展開に取り組むことにより、海外売上高2000 億円をめざします。そのために「パイプライン価値最大化」「育薬・営業強化」「米国事業展開」「業務生産性改革」という4つの挑戦を打ち出しました。製薬業は、プロダクトありきですが、研究・開発・生産・営業など、何もかもを自社だけで進める必要はありません。M&Aも含めてシナジーを出すための戦略投資を積極的に行い、アカデミアやベンチャー、他社との多様な協業形態の中から迅速な製品開発・上市に注力し、目標達成をめざします。