第25回 人脈は誰のもの? 藤原英理氏 あおば社会保険労務士法人 代表
働く人の価値観の多様化から「働き方」も変化し、現場の管理職の悩みも“イマドキ”なものになってきています。
そんなイマドキな悩みの解決方法を、社労士の藤原先生が紹介します。
第25回 人脈は誰のもの?
最近、営業部門の成績が低迷している。どうも同業他社に転職した中堅営業社員が、在職当時の人脈を使って営業しているようだ。退職時に名刺の持ち出し等はしないよう注意したのだが、SNSや名刺管理ソフトを使って在職中に知り合った取引先とつながっているらしい。今後同様のことが起こらないようにしたいが、どうすればいいのだろうか。
ポイントとなる2つの論点
今回の論点は、「競合する同業他社に転職することを阻止できるか」「在職中に得た情報を別企業で利用することが許されるか」という2点です。同業他社への転職については労働法上の競業避止義務が、在職中に得た情報の利用については不正競争防止法に基づく営業秘密の持ち出しに当たるかどうかがポイントになります。まずこの2点について述べたうえで、対策を検討します。
同業他社への転職を禁止できるか
まず、労働者には職業選択の自由があり、雇用者はこの自由を合理的な理由なく規制することはできません。例えば、就業規則に「同業他社に転職してはならない」と定めていたり、あるいは本人から「同業他社に転職しない」という誓約書を受領したりしていても、それらの文言がそのまま有効と見なされるとは限りません。
過去の判例では、「特定の就業先に転職することを規制してまで守るべき企業の利益があるか」「対象となる従業員の地位は職業選択の自由を制限するほど高いか」「転職を禁止する地域・期間が限定されているか」といった複数の視点から総合的に判断されており、就業規則の記載や、本人との個別の誓約書がある場合でも、同業他社への転職禁止が無効となった事例があります。