TOPIC KAIKAカンファレンス2017レポート VUCA時代に日本企業が選ぶ 組織と人づくりの選択肢【前編】
人・組織づくりの先進事例が集まる「KAIKAカンファレンス」。
2014年のリニューアル後、4回目を迎えた今回は、グローバル展開に伴い、人材マネジメントを大きく転換する最中の日本企業の具体的事例や、パフォーマンス・マネジメントの方法、AIの導入なども報告された。2号にわたり、その模様の一部をレポートする。
今、人事は何をすべきか
「KAIKAカンファレンス」は、日本能率協会(JMA)が、1982年から開催した「HRD JAPAN(能力開発総合大会)」を2014年度からリニューアルしたもので、今回で4回目の開催となる。人材育成・組織開発に関する先進企業の実務家による講演やディスカッションを通じて、新たな知見獲得や情報交流を図る場である。
近年、イギリスのEU離脱決定や、欧米を中心としたポピュリズムの台頭など、世界経済にも大きく影響を及ぼす変化が次々と起きている。また、AIの研究や技術開発が進み、人事や人材開発の現場においても既に活用が始まっている。そうした時代に、「人と組織が自発的に成長し、企業が開花(KAIKA)し、同時に社会も活性化していくために、人事や企業は何をすべきなのか」を明らかにするという大会コンセプトは、来場者に、本質的な問いとして響くはずである。
大会は、深く広い知見で一世を風靡する東進ハイスクール現代文講師の林修氏の基調講演を皮切りに、3日間にわたって29のプログラムが進められ、来場者数は延べ2200名を数えた。
今年は2号にわたり、4つのセッションを紹介。うち本号では2月7日の、H&Mによるダイバーシティと働き方をテーマとしたセッションと、グローバルとタレントマネジメントをテーマとした味の素の事例をダイジェストで報告する。日本企業は今、具体的に何をどう変革する必要があるか、また、実際にどう変わっているかが、赤裸々に語られた。
「ダイバーシティ×働き方」H&Mの目指すサステイナブルな働き方
2月7日(火)
【講演者】エイチ・アンド・エム ヘネス・アンド・マウリッツ・ジャパン PRコミュニケーション マネージャー 室井麻希氏
H&Mは、ファストファッションのトップブランドとして、2008年に日本へ進出。その先端的なファッションの裏には、社員一人ひとりが輝くための施策や思想や環境がある。1児の母である室井氏がそれらを紹介し、日本企業への提案を述べた。
フラットでシンプルな社内文化
70年前にスウェーデンで誕生したH&Mのビジネスコンセプトは、「ファッションとクオリティを最良の価格でサステイナブルに提供する」というものです。当社ではこのサステイナブル(=持続可能な)という言葉が日々使われ、ビジネスのあらゆる領域で徹底するよう努めています。
世界では現在、4300店舗以上を展開し、約16万1000人の従業員が働いています。女性比率は76%、女性管理職比率は72%です。
日本国内では64店の従業員約3200人のうち、女性が70%、女性管理職比率は52%。日本企業全体の女性管理職比率は6.6%ですからかなり高いようですが、グローバル基準をめざしているため、まだまだ改善の余地があると思っています。
私は外資系の広告代理店や服飾通販の会社を経て入社したのですが、当社に来て、いくつかカルチャーショックを受けました。特に驚いたのが、「敬語の使用禁止」「ワーキングマザーが海外駐在となるのは普通で、夫が会社を辞めてついてくる」「プレゼンでのパワーポイントの不使用」などです。
「敬語禁止」というのは、日々のフィードバックでお互いが遠慮しないようにするためと、より風通しを良くするためです。当社はそもそも、社長、マネジャー、スタッフの3層のみの、とてもフラットな組織です。H&Mが日本に進出する際、名前をファーストネームで呼び合うことを当時の(日本法人)社長が定めました。
また、H&Mではアイデアの伝達に、見栄えの良いパワーポイントは使いません。例えば、特に重要な3つのキーワードでまとめます。見ための美しさよりも、コンテンツに注力するためです。
組織育成とWLB重視で評価
サステイナブルな組織であるための具体的な考え方や制度をご紹介します。私自身、2年前に息子を出産し、昨年4月に職場復帰しました。「外資系だから働きやすいでしょう」と言われることもありますが、母親と働くことが結びついた時点で、保育園問題や核家族問題、3歳児神話などの日本の伝統的な母親像といった問題がつきまといます。日本法人でもあるため、恐らく抱えている状況は皆さんとすごく近いと思います。それでもマネジャーとして働き続けられているのは、独自の価値観や制度が職場の多様化を支えているからです。
H&Mでは7つの価値観(H&M7 Values)を大切にしています(図1)。③は日々の改善、⑤はオーナーシップと言い換えてもよいでしょう。この7つの価値観に沿う人物かが、採用時に最も重視され、評価基準でも重要になります。そして大変な時こそ「HAVE FUN !」で何事も楽しむ気持ちを忘れずに、という発想も大切です。
サステイナブルな働き方という点では、次の5つの取り組みを行っています(図2)。