人材教育最前線 プロフェッショナル編 社員の“当事者意識”を促し エンゲージメントを高める積極的人事
外資生保大手のマニュライフ生命では、“攻めの人事”を実践している。グローバル化を意識した研修制度の刷新と同時に、働き方変革と社員のエンゲージメント向上に力を入れる。その取り組みは、民間調査で「エンゲージメントの高い企業」に選定されるなど、外部からも注目を浴びている。
同社の変革の立役者といえるのが、人事部門トップの前田広子氏である。
金融の第一線で活躍していた時代から、人事に思いをはせていたという前田氏。同氏が考える、人事のあるべき姿とは。
経営に作用する人事の面白さ
「凛とした」という表現がしっくりくる。小柄な体からは、あふれんばかりのエネルギーが滲み出ており、意志の強い女性を思わせる。一方で驚くほど親しみやすく、威圧感がない。マニュライフ生命執行役員で人事部長を務める前田広子氏に対する、第一印象である。
本人は「バイタリティーだけが取り柄なんです」と謙遜するが、そのキャリアをひもとけば、理論と行動に関して抜群のバランス感覚を持っていることが分かる。
アメリカの大学で金融を学び、証券会社で引受業務に従事、その後、経営学の修士を取得。投資信託会社に就職し、事業開発や営業企画などの仕事に従事していた。金融現場の第一線で働きながらも、人事に対して関心を持っていたという。
「学生時代、組織行動学を面白いと思っていました。当時はビジネスとの接点がつかみきれず、仕事にはできないと感じていたのですが、働いているうちにつながりに気づき、人事の仕事は大切なのではないかと思い始めました」(前田氏、以下同)
その後、転職した外資系の投資信託会社で人事の仕事に対する思いを深めることになる。
「最初の1年間、トレーニーとしてさまざまな部署を転々としていた際、当時の人事部のコーディネート力と細やかなフォローに、とても感銘を受けました。自分の業務に関連した現場をいくつも経験させてもらいましたし、リーダーや経営陣と話す機会もたくさんあり、貴重な期間でしたね」
この経験により、人材開発は間接的ながら企業の経営を左右すると実感した。そして将来は人事の仕事に携わりたいと思うようになった。だが一方で、人事業務に携わるのは一定の現場経験を積んでからにしよう、とも決めていた。
「人事の仕事は、事業部で培われてきたあらゆるスキルセットがベースになっている気がします。最も常識的で、一般的なことを理解していなければならない仕事です。もちろんタレントマネジメントやトレーニングに対する知識など、専門的なこともありますが、それは後で学べばよいことだと思うのです。今でも現場での経験が、判断のベースになっている部分があると感じています」
事業部で実績を積み重ねながら、「いつか人事の仕事に携わりたい」と事あるごとにアピールし続けてきた。そして数年後、思いは伝わり運用部門及び営業部門の人事ジェネラリストになった。
マニュライフ生命への入社も、人事への純粋な思いにより実現した。当時、人事部門のトップも兼任していたマニュライフ生命の日本法人の社長を知人に紹介され、彼と人事に対する考えを語っているうちに意気投合したのだという。
「人事に関するいろいろな話をしましたね。特に、『人事は外側から会社を見ているだけでなく、もっと事業部に関わっていくべき』という考えは互いに一致しました。そのような話をしているうちに、『だったらうちに来ないか』と誘われたんです」
人事は事業部の戦略的パートナーとして、アクティブに仕掛けていく存在になることで、真の価値を持つのではないか。前田氏のその考えは、「積極的な人事の形」を模索していたトップにも強く響いたのだ。
「私が本部の人事ではなく、事業部の人事を担当していたことも影響していると思います。人事が事業部のことをキャッチアップし、自分たちから事業部に向けて企画を持ちかける。つまり営業するくらいの動きがなければいけないと考えていました。そうでなければ、本来現場をサポートするはずの人事が的外れな方向に進んでしまう。そういう危機感を抱いていました」