第4回 質のよいコースの設計手法 遠藤裕隆氏 富士ゼロックス クラウド&メディア事業開発部事業開発センター シニアコンサルタント
現場力を高め、変革をリードする人材の育成に欠かせないものは何か。
それは可視化できるような人材育成の「仕組み」をつくることである。属人的にならない仕組みを構築し、共有・運用していくことは、人材育成における基本ともいえるが、果たしてどれほどの企業でこれが確立されているだろうか。本連載は、経営と現場の視点で、人材育成の仕組みづくりについて解説する。
●コース設計における課題
前号では、「成長の可視化」を実現するための「人材育成体系図」の構築の仕方について紹介した。それを踏まえてどのように質の高いコースを設計していけばいいのか。今回は「伝承の可視化」を実現するための「コース設計」について紹介する。
現場のマネジャーと話をすると、「技術が属人化していて、伝承がうまくいっていない」「どう伝えていけばいいかが分からない」といった悩みをよく聞く。さらに上位マネジャーからは、「教育が現場の問題解決につながっていない」「本当に教育がうまくいっているのかが分からない」という声も聞こえてくる。
そこで必要になるのが、現場の問題を解決するという成果起点でコースを設計することである。つまり、受講者に「業務の役に立たない」「何のためのコースか分からない」と言われるようなものではなく、受講者が興味を持ち、業務に役立てることができるような質の高いコースを設計しなければならないのだ。
しかし、現状、技術や生産といった現場系の教育の場合は特に、教育のプロではない現場の社員(匠)がコースを設計するケースが多い。そのため、どのようにすればいいか分からず、属人的な設計を行い、コースの質がばらつくという問題が起こっている。これは、コンプライアンス教育や階層別教育の場合でも同様である。
したがって、人材開発担当者は、現場の社員に対して、彼ら自身が「質」の高いコースを簡単に設計できる手法を提供する必要がある。
●コースの質とは
では、質の高いコースとはどのようなものか。質には「、魅力」「効果」「効率」という3種類があり、コースを設計する際は、企画の段階でこの3つの質をバランスよく盛り込む必要がある(図1)。コース設計の狙いは、組織の問題を解決することである。この時に、コースの質をつくりこむ手法を私は「問題解決型コース設計」と呼んでいる。
(1)コースの「魅力」
受講者に「面白そう、役立ちそう、やってみたい」と思ってもらうこと。コースの冒頭で「魅力」を分かりやすく伝えることにより、受講者と問題の共有を図り、これから学習するぞという気持ちを喚起させることがポイントである。
「魅力」を伝える具体例としては、ロールモデルの行動を示す、キャリアアップのための情報を提供する、危機感を醸成する、といったことが考えられる。