外国人材の心をワシづかみ! 日本発のマネジメント 第11回 日本の勤労観を世界に発信する
世界の人材争奪戦において遅れをとる日本。
打開策は現地の人々のより深い理解、そして日本企業ならではの育成、伝統にある―。
異文化マネジメントに精通する筆者が、
ASEANを中心としたグローバル人材にまつわる問題の解決法を解説します。
日本型経営の強靭化計画
知識創造論の提唱者である野中郁次郎氏は、著書の中で「日本企業のグローバル・プレゼンスの低下は、欧米流経営への過剰適応から自らの立ち位置を見失ったからではないか。(中略)それは世界の知を取り込めない閉鎖型組織による同質化競争、人間らしい社会の持続的成長を忘れた消耗戦経営につながっている」と述べています(『ビジネスモデル・イノベーション』)。私は、この見解に、「だから、日本企業は日本をもっと必要としている」と付言したいと思います。
本誌3 月号(第10 回)で私は、「多様性の尊重は……(中略)自文化についての知識を持ち、そこから湧き上がる自国への尊敬の念と、自社の流儀への自尊心があって初めて可能になるものです」と述べました。今月は、この「自尊心」と「自社(国)への尊敬の念」に焦点を当てたいと思います。
ポイントは、日本企業らしい付加価値を生み出すのに必要な文化的土壌とは何か、です。日本文化のどのような点が、海外ビジネスに携わる日本人の精神的バックボーンになり得るかについての考察です。世界の地政学と経済活動から既存の発想が取り払われ、VUCA(不安定性・不確実性・複雑性・曖昧性)の度合いが増す現代。今こそ、海外から賞賛され、社員が安心して貢献できる、堂々たる自社流(日本型)経営の強靭化計画を打ち出す時です。
VUCAは自然か不自然か
まず、最近欧米のビジネススクールが教え始めたVUCAですが、これを見た瞬間、ああ、この時代を生き抜く術はみんな日本が長年実践してきたことじゃないか、と思いました。
物事は万物流転、諸行無常(Volatile)が世の常です。物事に予測の利く確実なことはそうありません(Uncertain)。自然も動植物も人間も、どれも生きとし生けるものはすべからく複雑系(Complex)です。人の気持ちは常に揺れ動いていて曖昧(Ambiguous)であるはずです。イエスでもありノーでもある。好きでもあり嫌いでもある。
こういうVUCAな世界観を、居心地が悪いから一刻も早くはっきりさせたいと感じる欧米人がいる一方で、日本人はさほど違和感を抱いていないのではないでしょうか。そもそも森羅万象を一刀両断、是か非か、と割り切ること自体、不自然に感じる日本人は多いのではないかと思います。
この感覚の源流は日本の文化にあるのでしょう。一神教の文明観を持つ人は、曖昧な世界観に、生理的に違和感を抱くかもしれません。