「失敗との関わりとパフォーマンスに関する調査」より 研修での学びをパフォーマンス向上につなげる “失敗”との向き合い方
研修で学んだことを職場で応用し、パフォーマンス向上につなげられるのは、どのような人材なのか。
それは、職場での実践を積極的に試み、失敗しても乗り越えようと挑戦や努力を続けられる人材、そのような姿勢を“ 習慣”にできている人材なのではないか。
そこで、今回はビジネスパーソンを対象に失敗の「受け止め方」、失敗への「関わり方」について、調査を行った。
研修で学んだことを職場でのパフォーマンス向上につなげられる人材と失敗との関係を探る。
1 はじめに
■研修価値向上の鍵は失敗との関わり
研修は、その実施自体が目的ではない。さらに、スキルや能力の獲得も目的としては不十分である。参加者が、職場でスキルや能力を上手く応用し、パフォーマンスの改善をもたらすことができて初めて、その目的が達成されるのだ※1。
研修で学んだスキルや能力を上手く応用できるようになるためには、トライ・アンド・エラーのプロセスを避けることはできない。例えば、リーダーシップに関する研修を初めて受けた参加者が、職場に戻ってからすぐにリーダーシップを発揮できる人材になることはまれだろう。応用と失敗を繰り返しながら、期待された人材へと一歩一歩近づいていくというプロセスが、多くの研修において想定されているのである。
そこで、今回は“失敗”に着目した。なぜなら、それらの失敗に対して、研修参加者がどのように向き合うのかという点が、研修の価値を最大化する鍵となるからだ。失敗に向き合い、それを乗り越えようと挑戦し続けるような参加者は、研修で学習したスキルや能力を活用できる人材となる可能性が高い。それに対して、一度の失敗によってあきらめてしまうような参加者は、たとえ研修自体の質が高くとも、それを上手く応用できるようにはならないのである。
※1 研修参加者の経験学習スタイルや、積極的な学びの姿勢、応用しようとする動機といった要素が、パフォーマンス改善に与える影響について分析した結果は、本誌2017年2月号「研修を職場のパフォーマンスにつなげるために、必要なものとは」(p50-55)を参照。
■「自分はできる」が習慣につながる
「失敗であきらめてしまう人材は、研修で学んだことを実践できない」という問題は、一般的な「習慣化」の問題と、密接な関係にあるということができる※2。例えば、「毎日英会話の勉強をする」といった習慣を身につけようとしている状況をイメージしてみよう。初めの数週間は毎日勉強を続けることができ、その中で「自分はできる」という感覚、心理学でいういわゆる「自己効力感」が高まっていくだろう。
だが、もし仕事が急に忙しくなったなどの理由で、1 週間ほど連続で勉強できない日が続いてしまったとしたらどうだろう。その際に、「やはり自分は勉強の習慣を身につけることができなかった」と考えることで、元の生活に逆戻りしてしまう人もいれば、「今回は勉強できない日が続いたけれど、習慣化のプロセス自体が失敗したわけではない」と考えられる人もいるだろう。この場合、後者のような考え方ができる人は小さなつまずきによって「自分はできる」という感覚を失ってしまうことなく、次の日から改めて勉強を再開できるのである。
※2 研修応用の問題を検討する際に、習慣化における再発予防(Relapse Prevention)の議論が重要な示唆を提供するという主張は、Robert Marxによって約35 年も前に行われたものである。
■研修を応用する努力を続けるために
このような「自分はできる」という感覚の維持は、一般的な習慣化だけではなく、研修の応用においても重要な役割を果たす。研修内容を上手くパフォーマンスにつなげられなかった際に、「自分はできる」という感覚を失ってしまったならば、それ以上の努力を投入し続けることは困難であろう。さらに、失敗した原因を自分以外の周りのせいだと思う傾向、いわゆる「自己奉仕バイアス」が強い人は、「パフォーマンスが高まらなかったのは、そもそも研修自体が無意味だったからだ」と結論づけるかもしれない。「研修が無意味だった」という言い訳をすることによって、失敗を乗り越えようとしなくなり、本当に研修実施がパフォーマンスにつながらなくなるという自己成就的な結果が生じてしまうのである。
では、研修の内容を上手く応用できるようになるためには、失敗に対してどのように向き合う必要があるのだろうか。失敗に立ち向かい乗り越えようとする人は、本当に研修内容を職場で応用できているだろうか。
本稿では、これらの疑問に答えるために、約500 名のビジネスパーソンを対象とする調査を行った。調査では、回答者が直近で参加した研修に関して、その効果を「(1)研修応用(職場で応用しているか)」「(2)応用パフォーマンス(研修の応用をパフォーマンスにつなげられているか)」「(3)スキル改善努力(研修参加後もスキルや能力の維持・改善の努力を続けているか)」という3つの指標に基づき測定・評価した。